たどり着いたのは「パラリンピアン、一ノ瀬メイ」という生き方 自分自身と向き合うことから始まった引退後の生活 (3ページ目)

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • 村上庄吾●撮影 photo by Murakami Shogo

【持続可能なパワーの源は、自分自身】

 さまざまな現場で、さまざまな顔を持ちながら活動するなかで、肝に銘じていることがある。「自分自身を犠牲にした活動は、長続きはしない」だ。

 そう強く思ったのは引退後だった。アスリートとしての目標や日々のルーティンはもちろん、スイマーというアイデンティティも、所属先も仕事も、パラスポーツというコミュニティさえも一気に手放して、残ったのは自分自身だけだった。じっくりと向き合い、これから何をベースに人生の選択をしていこうかと自分に問いかけた。

「選手時代には周囲の期待に応えようとか、みんなの声を代弁しなければとか、さまざまなものを背負っていた気がします。すべてを手放したことでラクになって、改めて自分の価値観やこれから持ち歩いていきたいことを、一つひとつ精査しました」

 アスリートとしては、未来の大会に目標を置き、そこから逆算した今日を生きてきた。「4年後にメダリストになるために今日、自分がとるべき選択肢は何か」と考えるだけで、「その日、自分が何をしたいか」には一切、目を向けてこなかった。だからこそ、たどり着けたアスリートのレベルもたしかにあったが、ひとりの人間としては欠けているように思えた。

 自分を差し置いて、人のために活動するのは限界がある。だから、自分の声を聞く時間を持ち、本当は何をしたいかをしっかり理解する。それができてこそ、自分の言葉と行動がつながり、思いもしっかり伝えることができるはずだと考えた。

「今、一番興味があるのは心身の健康をどうやって保っていくかという、私自身のウエルビーイングです。自分自身が健康で余裕がないと、人に余裕をもって接することはできません。自分の心地よさこそが、持続可能なパワーなのだと思うようになりました」

 近年、環境問題に興味を持ち、そこからヴィーガン(完全菜食主義)に出会い、今はライフスタイル全般にビーガニズムを取り入れるようにもなった。「すべてが通じているなと思います」

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