たどり着いたのは「パラリンピアン、一ノ瀬メイ」という生き方 自分自身と向き合うことから始まった引退後の生活 (4ページ目)

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • 村上庄吾●撮影 photo by Murakami Shogo

【ただ純粋に、楽しむために】

 引退発表から1年も経たない昨年7月、パラ陸上大会に初参加し、100mを14秒97でフィニッシュした。プールからグランドへの鮮やかな転身は周囲を驚かせ、「現役復帰か」と話題になった。

 だが、本人は「陸上は趣味」ときっぱり。中学時代は陸上競技部に所属していたし、以前からパラ陸上の第一人者である山本篤(新日本住設)に勧誘されていたのはたしかだが、走り始めたのはあくまでも「体を動かしたいな」という思いからだ。

 引退まで、結果がすべての世界でやってきて、日本記録保持者になり、パラリンピックにも出場し、「自分なりに、もう極めた」。その代償としてケガや心身の不調も経験し、今は少しずつ健康を取り戻しているところであり、もう自分をないがしろにしたくない。

 陸上は健康的な生活のための一手段であり、ただ純粋に楽しむために走りたい。もちろん、タイムが伸びればうれしいから、そのための努力は惜しまない。山本作成のメニューにそって地元の競技場で週1~2回練習をしているが、メダルや世界を目指すつもりはない。

「スポーツには競技性を極めることから、ただ楽しさを追求する形まで、いろいろな取り組み方があっていい!」

 こうして日々発信したいことが、増えていく。

「パラリンピアン、一ノ瀬メイ」はこれからもありのまま、思うままに進み続ける。

Profile
一ノ瀬メイ(いちのせ・めい)
1997年、京都府出身。先天性右前腕欠損症。日本人の母とイギリス人の父を持つ。一歳半から水泳を始め、史上最年少13歳でアジア大会に出場。2016年リオデジャネイロパラリンピックでは8種目に出場し、現在も7種目の日本記録を保持。現役引退後の現在はモデル、スピーカー、俳優業などさまざまなシーンで活躍の幅を広げている。

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