スキージャンプの小林陵侑が取り戻した強さ。スーツのルール変更に翻弄されても五輪王者の力を発揮 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by MATSUO.K/AFLO SPORT

 日本チームの作山憲斗コーチも「勝ったのはサプライズです」と言いながら小林のジャンプをこう分析する。

「1本目は条件もよかったけど、踏み切りも少し柔らかさが出てきたというか。これまでは結果が出ないのでずっと助走姿勢もガチガチに組んでいたのが、やっとなくなってきて、彼本来の柔らかさが出てきたのかなと思います。2本目は上位の選手は力が入っているかなという感じで、陵侑も踏み切りのタイミングが少し遅れていましたが、そこでしっかり踏めたことで逆に上体が前に流れずに、追い風に合う空中姿勢を保てたのがよかったと思います」

 小林自身もこれまでの結果を考えれば、まだ勝てるまでの状態にはなっていないと考えていた。だからこそ僅差の争いとなった2本目も欲を持つことなく冷静に飛べていた。それが運を味方に引き寄せての今季初勝利につながった。

 そこには第13戦のザコパネ大会をスキップして帰国した効果もあった。これまでのW杯で日本チームは、新ルールのジャンプスーツへの対応に苦戦していた。遠征に持参したスーツの数も少なく、毎試合のように改良したスーツを使用できるヨーロッパ勢には後れを取っていたからだ。

そのため1月6日の第12戦のあとは帰国して各自で調整した。札幌開催のコンチネンタル杯に出場して調整した選手もいたが、小林は「あの時は新しいスーツがこなかったので、出場して自信を失うのも嫌だった」と出場しなかった。

 そのあとにカッティングを変えた新しいスーツが届き、10本ほど飛んで手応えを得た上での札幌大会だった。新しいスーツの効果を小林は「後半の伸びも戻ってきて他国とも戦えるものになってきたと思います」と話す。

 作山コーチも「ヨーロッパでは自信が持てなくなっていて難しい部分はあったのですが、ようやく選手の体に合ったマテリアルになっていると思う。これから世界選手権へ向けて勢いをつけていける」と期待の言葉を口にした。

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