井上尚弥vs.中谷潤人を米ボクシング関係者たちはどう見る? モンスターの防衛戦を見て予想を変えた識者も
米ボクシング関係者から見た井上尚弥vs.中谷潤人 前編
【「とてつもないビッグマッチになる」】
「いやぁ、ナオヤ・イノウエとラモン・カルデナスとのファイトは最高だった。現時点で、2025年のベストバウトと呼べるだろう。あの日は私が抱える選手も前座で出場したから、アリーナで生観戦したよ」現地時間5月4日、8ラウンドTKOで王座を防衛した井上尚弥 photo by 山口フィニート裕朗/アフロこの記事に関連する写真を見る
2024年に『RING』誌から年間最優秀トレーナーに選出された50歳は、井上尚弥が現地時間5月4日にWBA/WBC/IBF/WBOスーパーバンタム級タイトルを防衛したファイトについて、そう語った。
元IBFスーパーフェザー級チャンピオンのロベルト・ガルシア。引退後トレーナーに転じ、井上と2度拳を交えたノニト・ドネアやWBAライト級チャンピオンのブランドン・リオス、WBCウエルター級王座に就いたビクター・オルティスらをコーチし、指導者としての能力を示した。名トレーナーとして名が売れるようになってからは、引っきりなしに選手たちからコーチの依頼を受けている。
無論、ガルシアは第2ラウンド終了17秒前に左フックを浴びて、モンスターがダウンしたシーンについても触れた。
「確かに第2ラウンドにダウンを喫したけれど、ボクシングならあり得ることさ。私が注目したのは、喰らった後だ。時間をかけてレフェリーのカウントを聞いて、立ち上がった点。キャリア初期にダウンすると、ファイターはどうすればいいのか分からなくなってしまう。でも、いかにダメージを回復させるか、相手の攻撃にどのように反応するかが大事なんだ」
ドネアのコーチも務めたロベルト・ガルシア氏この記事に関連する写真を見る
残り時間がわずかだった2ラウンドをしのいだ井上はディフェンスの意識を高め、同じ過ちを繰り返さぬよう戦った。
「イノウエは実にスマートだった。『やっぱり、ボクシングを知っているな』と唸らされたよ。成熟した巧みさを見せた。キャリアを積んでいるからこそだ。経験豊富なファイターで、すでに(ルイス・ネリ戦で)ダウンを味わっているからこそ、対処法を十分理解していたね。
まさにプロの戦い方であり、非の打ち所がない。その後は『これぞボクシングだ』といった流れで、カルデナスを沈めた。ダウン、イコール衰えじゃない。私はイノウエが衰微を見せたとは、これっぽっちも感じない」
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著者プロフィール
林壮一 (はやし・そういち)
1969年生まれ。ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するもケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。ネバダ州立大学リノ校、東京大学大学院情報学環教育部にてジャーナリズムを学ぶ。アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(以上、光文社電子書籍)、『神様のリング』『進め! サムライブルー 世の中への扉』『ほめて伸ばすコーチング』(以上、講談社)などがある。