東京五輪の閉幕から1年も「負の遺産」は消えない。今後も国民に負担がかかる経費問題をあらためて検証する (4ページ目)

  • 小崎仁久●文 text by Kosaki Yoshihisa
  • photo by Kyodo News

検証はなく、損失は増えるばかり

 総経費としては、2017年発表の「V2予算」以降は1兆3500億円に落ち着いた。開催の1年延期で、V5予算(2020年)は1兆6440億円と再び増加したが、延期ののち観客のいない大会となった東京五輪は、収入のみならず支出も減り、冒頭の1兆4238億円という最終報告となった。

 7340億円で開催すると言われたオリンピックに、なぜ1兆4238億円もの経費がかかったのか。疑問を感じ批判の声を挙げても"馬耳東風"である。東京都と国が財務保証をしているため、組織委員会は予算管理を積極的に行なってはこなかった。まして何がどうなっても損失を被ることがないIOCは、そもそも経費の数字に興味はないだろう。

 招致段階での予算はほとんど無意味な数字であること、過去の大会も経費は大幅に超過してきたこと、どこまでを大会経費と見るか定まっていないことなどは、オリンピック産業の関係者には以前より知られてきた。6月に公表された「東京2020公式報告書」にも、経費に関する考え方、変遷について書かれてはいる。

 しかし2013年、アルゼンチン・ブエノスアイレスで、当時のジャック・ロゲIOC会長が「TOKYO!」と開催都市を発表した時、どれだけの国民がオリンピックの経費に関して知っていただろうか。

 1兆4238億円のうち、5965億円(42%)は東京都、1869億円(13%)は国が負担することになっている。国民には知る権利があるにもかかわらず、組織委員会や東京都、JOC、スポーツ庁を含めた政府組織も、招致活動からここまで十分な説明をしてきたとは言い難い。1兆4238億円以外にも、国立競技場をはじめ新設した7つの恒久施設のほとんどは毎年、計30億円以上の損失を生み出すことはわかっている。まして1兆4238億円でも、「大会経費のすべては計上されていない」という指摘も、会計検査院をはじめ国内外の機関から上がっている。

 閉幕から1年が経っても五輪経費の実態のすべては明らかになってはいない。組織委員会は解散し、今後は東京都と国が経費の検証を行なうしかない。しかし、不透明な五輪経費の説明を怠ってきたスポーツ界、東京都、政府組織に、東京五輪の"負の遺産"の検証が期待できるだろうか? 偽りの言葉で五輪を招致し、莫大な公費を投入した責任は誰が取るのだろうか? 

 さらに、2030年冬季五輪の札幌への招致活動が始まり、再び五輪経費の不透明さを「スポーツのため、未来の子供のため」という曖昧な言葉で覆い隠そうとしている。日本のスポーツ界は、東京五輪の"負の遺産"の検証もなしに突き進むことに何も疑問を持たないのだろうか。

(連載2:「経費のコスト超過率」は平均のはるか上も、詳細は闇の中。「レガシー」の継承は果たされずに終わった>>)

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