東京五輪の閉幕から1年も「負の遺産」は消えない。今後も国民に負担がかかる経費問題をあらためて検証する (3ページ目)

  • 小崎仁久●文 text by Kosaki Yoshihisa
  • photo by Kyodo News

経費の支払いは都民か国民

 本来オリンピックは、非政府組織のIOCが主催する非公的イベントである。チケットの売り上げや、スポンサーから集めた前述の大会組織委員会予算だけで行なわれるモノ。既存の競技場、選手村に使える施設などを借り、3013億円の運営予算で大会をやりましょう、というのが今回の東京五輪だったのである(立候補ファイルには「競技場賃借料」なる予算項目もきちんとある)。

 しかしIOCは立候補都市、立候補国政府に、五輪開催に際し「財務保証」を求めている。万が一、大会組織委員会が資金不足に陥った場合、管轄当局が補填することを約束させている(万が一は毎回起こり、それを前提に都市選考が行なわれているわけだが......)。「組織委員会の予算に不足があれば、東京都が補填し、都が補填しきれない場合は、日本国政府が補填する」と立候補ファイルに明記し、東京都は開催都市を勝ちとった。政府は「経費の必要性の十分な検討」を条件に、2011年には財務保証を閣議了解。2013年には、当時の菅義偉官房長官がIOCの評価委員会に対し、国の財務保証を約束している。

 東京都とIOCとの「開催都市契約」には、オリンピックにおけるいかなるコミットメントに関しても、東京都、日本オリンピック委員会(JOC)、組織委員会は履行義務を負い、そこには財務保証を行なう政府も含むとある。単なる約束、声明であったとしても、それが守られない場合、IOCは一方的に訴訟を起こすことのできる契約になっている。つまり、五輪の経費というものは、何兆円に膨らもうとも最終的には、都民もしくは国民が支払わなければならないものだったのである。

 開催都市選考で最も評価された「85%の競技会場を選手村から半径8km圏内に配置」したコンパクトな計画も、数字遊びの予算管理でどこかへすっ飛んでいってしまった。経費削減のため、IOCは「オリンピック・アジェンダ2020」で、開催都市以外での競技実施を認め、東京都は都政改革本部にオリンピック・パラリンピック調査チームを設置した。

 それらの"努力"の結果として、競技会場は全面的に計画が見直された。静岡県、埼玉県など都外の既存設備の活用が見直しの中心となり、自転車トラックやバスケットボールなど12の会場を変更した。5000億円と予想された施設整備費の削減には貢献したが、競技会場は分散。コンパクトを評価されながら、お金のためにコンパクトさを失ったオリンピックとなった。

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