【大相撲】「日本人横綱」誕生の可能性を秘める4人の逸材 (2ページ目)

  • 福留崇広●文・写真 text&photo by Fukutome Takahiro

 昇進するには2場所連続優勝か、それに準じる成績が条件だ。北の湖理事長は「まず1度、優勝すること」と語っている。栃東以来、9年ぶりの日本人優勝を果たせば、自然に綱への道は開けてくる。優勝ラインは13勝以上と考えると、白鵬、鶴竜(井筒部屋)、日馬富士(伊勢ヶ濱部屋)の3横綱に負けては賜杯を抱くことはできない。

 その点、稀勢の里は白鵬の63連勝を止めるなど、3横綱を圧倒する内容で勝ってきた実績がある。昨年12月26日の横綱審議委員会による稽古総見でも、日馬富士を左のおっつけだけで宙に浮かせるなど、改めてすさまじい馬力を見せつけた。昨年の11月場所では得意の左からの攻めだけでなく、課題だった素早く右上手を引く攻めも光り始めてきた。左を差して、すぐに右の回しを取る速攻が形になれば、白星は積み重なるはず。体重も絞り調整は順調だ。稽古場の力を本場所で出せば、優勝が見えてくる。

 ただ、この大関は15日間安定した力を持続できないのが、最大の弱点。加えて苦手力士がいる。関脇の碧山(あおいやま/春日野部屋)には昨年2勝3敗。"怪物"逸ノ城には、9月場所の初顔から2場所連続で土を付けられている。

 白鵬に挑む時は、ふてぶてしいまでに闘志を土俵上で露(あら)わにするのに、合口(あいくち)の悪い相手だと立ち合いで待ったをかけることが頻発するなど、心の不安定さが露呈してしまう。優勝、その先の横綱昇進で絶対に許されないのは、格下力士への取りこぼしだ。その意味で、稀勢の里が綱を張るためには、碧山、逸ノ城との対戦がカギを握る。7月で29歳になる。今年が綱へのラストチャンスと気を引き締めて、何が何でも昇進を果たして欲しい。

 三役で日本人横綱への可能性を感じさせてくれるのは、今場所、小結に復帰した高安だ。13年9月場所で平成生まれ初の小結に昇進も、大敗して1場所で三役から転落した。以来、精彩を欠く場所が続いたが、先場所では白鵬を力強い突き押しで圧倒し、金星を獲得した。

 稀勢の里と同じ田子ノ浦部屋で、以前は稽古でも大関に一方的にやられることが多く、負け癖が付いているようだったが、最近は稀勢の里を圧倒する内容も見せるようになってきた。年末に元大関の琴欧洲親方と話す機会があったが、親方も「今、一番いいのは高安。相撲が変わったし、何より気持ちが体全体から出るようになったのがいい。来年は化ける予感がする」と太鼓判を押していた。

 昭和末期の九重部屋で保志が連日、千代の富士の胸を借りて横綱・北勝海になったように、高安も稀勢の里にぶつかることで、番付をさらに上げる予感は十分。平成生まれ初の優勝、そして大関昇進を今年中にかなえてもらいたい。

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