検索

小説『アイスリンクの導き』第18話 「取得と喪失」 (2ページ目)

「フリー、何を言っても出場するんだろうから、期待しているよ。終わったら、少し治療しながら休もう」

 そこで、誰かが部屋のドアをノックした。

 有村医師が目配せしてきたので、翔平は頷いた。

「はい、今、ドアを開けますね」

 有村は椅子から立ち上がり、ドアに向かった。ガチャリ、と内側からドアを開けた音がした。「翔平は?」と四郎コーチの声が聞こえ、「いますよ」と有村が答えていた。

「全員集合ですね」

 翔平は一人一人の顔を見ながら言った。四郎コーチ、凌太特別コーチ、東山圭吾マネージャー、そしてフィジオセラピストの早乙女倫也だ。

「みんな、翔平君が心配なんだよ」

 有村が椅子に座りながら言った。

「それで、症状はどうなんですか?」

 四郎がもどかしそうに訊いた。二人っきりで診断を望んだことで、何かあったのは承知しているのだろう。

「右膝が炎症を起こしています」

 有村が言うと、部屋に緊張が走った。

「どんな感じですか?」

 四郎が恐る恐る訊ねる。

「前十字靭帯は心配ないです。疲労の蓄積による炎症が少しひどくなっている状態ですね」

「競技は?」

 凌太が端的に質問した。

「できます。というよりも、やらないという選択肢は、彼にはないようなので」

 有村が言った後、翔平が引き取った。

「ということです。出られます、というか、出ます」

「とりあえずは安心した」

 四郎が安堵のため息をついた。

「では、僕の出番ですね」

 フィジオセラピストの早乙女が明るく言って、身を乗り出した。理学療法士とも言われるフィジオセラピストは、体のトラブルを見抜きながら、マッサージで疲労を回復させ、医学的メンテナンスを施すことで、選手のパフォーマンスを最大限に引き出すのが仕事だ。

「よろしくお願いします」

 翔平が座ったままで頭を下げた。

「早速、みっちりと施術するとしましょう」

 簡易ベッドは部屋に運んであった。

「みんなも、ありがとう。今日はもう大丈夫なんで、明日」

「午前中の練習はスキップしておくか?」

 凌太が言った。

「いや、朝起きてから決めるよ。11時半だから、それで間に合うし」

「わかった」

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る