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羽生結弦、絶対王者チャンから得た「勝利以上の収穫」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「しょうがない。次は跳ばなきゃ」と切り替えたが、次の4回転トーループでは焦りが出てしまい転倒。さらに3回転フリップは跳びきったが、ロングエッジで減点されてしまった。続くステップシークエンスも本来のスピードがなかったが、そこから、羽生は自分の気持ちを立て直した。

「プログラムではジャンプに集中しなければいけないが、今回の試合までの練習では、ステップとかスケーティングや振り付けに力を入れたうえでジャンプを跳べるように練習をしてきた。そういうトレーニングをしてきたので、動きながら心を落ち着かせることができたのだと思います」

 こう話す羽生は中盤のトリプルアクセル+3回転トーループを、2点の加点をもらうほど完璧に決めると波に乗った。その後もふたつのコンビネーションジャンプを含む4つのジャンプをきれいに決め、スピンでもすべてレベル4をもらう演技でフリーを滑りきると、カナダ大会を13・78点上回る168・22点を獲得。合計も263・59点まで伸ばした。

「カナダの時はその前のアメリカでの町田樹(たつき)選手の優勝を見て、プレッシャーや緊張感もあり、『パトリックに勝ちたい』という思いが強かったですね。その後、高橋大輔選手がNHK杯で優勝して、(総合ポイントの)上位をとるのが大変になったので、ファイナルを目指すというより、今できる自分のことに集中しようと思いました。

 昨シーズンだったら、前半のふたつの大きなジャンプでミスをしていたら、気持ちが落ち込んでいたと思いますが、今回は演技の後半に落ち着いて修正できた。カナダからの2週間弱で、SPだけでなくフリーでも少しずつ完成度を高めていけていると思うので、次はファイナルに向けて、もっといいプログラムを作っていけるかなと思います」

 こう話す羽生の前に、今回もチャンが立ちはだかった。チャンはフリーのすべての要素で加点をもらい、芸術要素の5コンポーネンツもすべてが9・39から9・86点まで獲得する完璧な演技。フリーは196・75点、合計では295・27点という世界歴代高得点を獲得して完勝した。

 ジャンプで少々軸がブレ気味になっても、きれいに跳んでしまう技術の高さ。スローな曲でもメリハリを付けた重厚なスケーティングで、技と技のつなぎでも常に表現を意識する滑り。スピードとキレで高い評価を得ている羽生も、重厚さという面ではなかなか対抗できないだろう。

 それについて羽生は「スケーティングは人によって違うもの。パトリック選手のスケーティングはものすごく力を使うが、小塚(崇彦)選手のようにエッジに素直に乗ってスーッと行くスケーティングや、高橋選手のようにものすごく滑らかなスケーティングもある。その中で誰のタイプをというのはないが、強いて言えば高橋選手のような、力を入れなくても流れに乗っていけるようなスケーティングを目指したいと思います」と話す。

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