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武居由樹がボクシング世界王者になる直前に大ピンチ 八重樫東トレーナーは「あんなこと言わなきゃよかった」と反省した (4ページ目)

  • 篠﨑貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro

【最終ラウンド前にあったやりとり】

――最終ラウンド、先ほど武居選手は「倒しにいった」と話していました、八重樫さんはどう見ていましたか?

八重樫 いや、ちょっと僕もよくなかったんですよ。インターバル中、武居に「まだ(スタミナは)残ってるか?」と聞いたら、「残ってます」と言うので、「じゃあいくぞ!」と言ったんです。

武居 言ってましたっけ?(笑)

八重樫 オレがけしかけた感じだね(笑)。

武居は5ラウンドくらいでガクンとスタミナが落ちて、"アップアップ"になってきたので「これ、まずいな」と。ただ、その時はスタミナや残りのラウンドについては触れずに、残り3ラウンドになった時に『あと3つ!』と声をかけました。そのあと、11ラウンドを終えてコーナーに帰ってきた時に意外と元気だったので、「これならいける」と。だから「まだ、いけるか?」と聞いたら、いけるとのことだったのでけしかけました(笑)。

――八重樫さんのアドバイスもあったんですね。

武居 僕はあんまり覚えていなかったですが......たぶん、ふたりともいきたかったんです。

八重樫 12ラウンドの途中で、「あんなこと、言わなきゃよかった」って思っていましたよ(笑)。

武居 危なかったですね(笑)。でも今後を考えたら、12ラウンドを戦えたのはすごく勉強になりました。

――判定の際、リングアナウンサーが「ニューチャンピオン!」とコールした瞬間の気持ちは覚えていますか?

武居 はい、覚えています。「うわぁっ!」となって、観客のみんなも「ワーッ!」となって。説明が下手くそで、すみません(笑)。それで、ゆっくりコーナーのほうに行ったら八重樫さんも喜んでいたので、抱きついちゃいました。感極まる、という表現が一番合っていますかね。

――先ほど八重樫さんは、中盤からどっちに転ぶかわからないラウンドもあったと話していましたが、武居選手は新王者としてコールされるまで不安もありましたか?

武居 12ラウンドを終えて、コーナーで座ってグローブ外している時に、八重樫さんに「(ベルトを)獲れました?」と聞いて「大丈夫だと思うよ」と言われていたので、「じゃあ、大丈夫だろうな」と。でも、やっぱりコールを聞くまでは不安でしたね。だから自分の名前を聞いた瞬間、いろんな感情があふれてきました。

(後編:いかにして井上尚弥に「ボコボコにされた」のか? マススパーリングは「憂鬱」で「恐ろしい時間でした」>>)

【プロフィール】

■武居由樹 (たけい・よしき)

1996年7月12日、東京都足立区生まれ。10歳でキックボクシングを始め、足立東高時代はボクシング部でも活躍。「power of dream」に所属し、2014年11月にKrushでキックボクシングデビュー。17年4月には第2代K-1 WORLD GPスーパーバンタム級王座を獲得。23勝(16KO)2敗の戦績を残し、20年12月、ボクシング転向を発表。元世界3階級王者の「激闘王」八重樫東トレーナーに師事し、21年にプロボクシングデビュー。プロ5戦目で、東洋太平洋スーパーバンタム級王座獲得。バンタム級転向のため、2023年11月にタイトル返上。2024年5月6日、WBO世界バンタム級タイトルマッチにて、王者ジェイソン・マロニーに判定3-0で勝利を収め、世界初挑戦で王座を獲得した。戦績は9戦9勝(8KO)。

■八重樫東(やえがし・あきら)

1983年2月25日、岩手県北上市生まれ。拓殖大学2年時に国体優勝。2005年3月に大橋ジムからプロデビュー。06年東洋太平洋ミニマム級王座獲得。11年にWBA世界ミニマム王座を獲得。13年にはWBC世界フライ級王座を獲得し、3度防衛。15年にIBF世界ライトフライ級王座を獲得、日本人3人目の3階級制覇を達成した。井岡一翔、ローマン・ゴンサレスなどとの激しいファイトスタイルから「激闘王」の異名を持つ。2020年9月に引退を発表。通算戦績は、35戦28勝(16KO)7敗。

著者プロフィール

  • 篠﨑貴浩

    篠﨑貴浩 (しのざき・たかひろ)

    フリーライター。栃木県出身。大学卒業後、放送作家としてテレビ・ラジオの制作に携わる。『山本"KID"徳郁 HEART HIT RADIO』(ニッポン放送)『FIGHTING RADIO RIZIN!!』(NACK5)ウェブでは格闘技を中心に執筆中。レフェリーライセンス取得。ボクシング世界王者のYouTube制作も。

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