柔道家・朝比奈沙羅が語る「ハードな医学部生活」と「ピョンピョン宙を飛ぶ練習」 (3ページ目)

  • 門脇 正法●取材・文 text by Kadowaki Masanori
  • photo by エンリコ/アフロスポーツ

――ところで、朝比奈選手は柔道の練習で、トランポリンやボクシングなど他の競技を取り入れていると聞きました。

「柔道では、勝つための練習にすごく重きが置かれます。だから、とにかく投げ技を磨くことが第一と考えられがちなんですが、世界のトップレベルまでくると『負けないための練習』が重要になってくるんです。もちろん、勝つための練習もするんですが、負けないためにどうするかっていうところで、防御力を高める必要がある。そこで他の競技が役に立つんです」

練習にトランポリンを取り入れる朝比奈沙羅(左)。元体操選手でもある大久保雄右JOC強化コーチ(右)から教えを受ける練習にトランポリンを取り入れる朝比奈沙羅(左)。元体操選手でもある大久保雄右JOC強化コーチ(右)から教えを受ける
――例えば、トランポリンがどのように柔道に活きるのでしょうか?

「柔道ってシンプルに言うと、投げられたときに背中をつけたら負けなんです。裏を返せば、投げられる瞬間に、即座に体を動かして、(顔が)畳のほうを向くようにすればポイントになりにくいんですよ。そこで、トランポリンの動きを取り入れることで、投げられる時に瞬時に背中をつかないようにする練習ができます。

 これは実際の試合での話なんですが、2017年の皇后盃全日本女子柔道選手権大会準々決勝、投げて、投げられての大接戦だったんです。そこで相手に投げられたとき、身体が完全に宙に浮いてる状態にもかかわらず、身体をひねって、畳を見ることができた。結果、相手にポイントがつかないように着地できたんです。空中で身体をひねって着地する、まさにトランポリンの練習のおかげだったのかなと」

――なるほど。朝比奈選手には、いろいろなことを受け入れられる柔軟性、それらをマルチタスクでやっていく能力が備わっているように思います。

「というよりも、私は飽き性なので(笑)。飽き性だから、ひとつのことだけを頑張れないんですよ。あと、ひとつのことを頑張りすぎると、まわりが見えなくなって、スランプに陥ったときに、なかなか抜け出せなくなるのかなって。何事も、モチベーションが下がっちゃうのが一番もったいないんで。別のスポーツを取り入れることは、リフレッシュの効果もあるんですよ」

――つまり、行き詰まったら、一度そのことから離れてみて、切り替えると。

「そうですね。それの繰り返しなんです。たまに、『うまくいかないときこそ、トランポリンなんてやってないで、投げる練習をもっとやるべき』みたいに言われることもありました。でも私としては、自分の課題から目を逸らしているわけじゃなくて、いずれは必ず克服する。必ず克服するけど、ときには回り道をしてもいいんじゃないか、っていう考え方なんです。

 そもそも、逃げることって特段悪いことではないと思っていて。例えば、ひとつの問題がその時点で対処できなかったとしても、別のことが先にできるようになる。それによって、できなかった課題も克服されることもあると思うんです」

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