【ボクシング】西岡利晃、ラストダンス。敗者がリングに残したもの (2ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 勝敗の予想を聞くと、彼は首を振った。

「いつも予想はしないんです。ボクシングですから、必ずどちらかは勝者に、どちらかは敗者になる。応援するだけです」

 現地ブックメーカーの賭け率は1対5。ドネア優位が大方の見方だ。だが、ロサンゼルスのジムでトレーナーをやっているという男の見解は違った。

「試合が決まった時は、ドネアの圧勝だと思った。でも、ドネアは今年7月のジェフリー・マサブラ(南アフリカ共和国)との試合に勝ったけど、内容はそれほど。現地の評価も、日ごとに西岡優勢に傾き始めている」

 屋外に設置されたリング。7千席のチケットは完売し、日が沈むにつれ、カクテルライトがカリフォルニアの夜空を照らした。メインイベントが近づくと、メキシコが生んだ英雄、元世界タイトル3階級王者のフリオ・セサール・チャベスなどボクシング界のスターが会場に姿を見せる。さらに、元WBA世界スーパーフライ級王者の名城信男や、通算9度防衛の元WBC世界スーパーフライ級王者・徳山昌守の姿もあった。

 リングインした西岡。体をほぐすために、小刻みなジャンプを繰り返す。その表情は、笑顔だった。

 そして、試合開始のゴングが鳴った――。

 歴戦の猛者をマットに沈めてきたドネアの左フックを警戒し、西岡は右のガードを固める。それに対し、『フィリピーノ・フラッシュ』の異名を持つドネアは、重い右ストレートを上下に打ち分ける。西岡は、右のガードを固める代償として、ジャブが出ずリズムをつかめない。右は出さないのか? それとも出せないのか? 試合後の西岡は、こう語っている。

「ドネアは特に序盤が強いんで、最初は警戒して、中盤にかけて出て行こうかなと思っていました」

 だが、ラウンドを重ねても、西岡はなかなかジャブを出さない。最初にしびれを切らしたのは、前座の激しい打ち合いの余韻を残した観客だった。無慈悲なブーイングをリングに浴びせる。その声は、西岡にも届いていた。それでも、「関係ないですから」と意には介さなかった。勝つために、倒すために、ひたすらチャンスをうかがった。

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