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【男子・世界バレー】日本代表は「トスが上がらなかったら勝てないのか」 セッター・関田誠大不在のチームに求めたい「個」と「組織」の強さ (2ページ目)

  • 田中夕子●取材・文 text by Tanaka Yuko

【チームとしての課題とは】

――問うべき課題とは、具体的に?

福澤 日本が理想とするバレーをするために、トスの精度は生命線でもあるけれど、「トスが上がらなかったら勝てないチームなんですか」と言えば、そうではないですよね。理想はあるけれど、そこにたどり着くためには時間が必要。トスが合わない、リズムが少し狂っているという時にチームとしてどう対応するか。それこそがチームとして求められる強さではないか、と思うのです。

 結果を見たときに「あの1点を取るためのトスが上がっていたら勝てた」と捉えるのもひとつですが、「あの1点を取るためのトスは割れてしまったけれど、チームとしてもっとマネジメントができたんじゃないか」と考えることもできる。

 トスだけでなくサーブも同じです。「サーブが走らなければ勝てない」というのは確かだけれど、強いチームというのは「サーブが走っていないから、今日はこっちの戦術にシフトしよう」と柔軟に対応できる。セッターとアタッカーにも同じ考えが当てはめられるはずです。

――理想を求めながらも、うまくいかないときにどうするかが大切になるということですね。

福澤 そうです。具体的な例としては、2008年から2009年のブラジル代表がまさにそうでした。リカルド(・ガルシア)という世界一のセッターのあとを継ぐ形で、ブルーノ(・レゼンデ)という選手が出てきた。彼は私と同じ歳なのですが、代表デビューしたての彼のプレーは、言葉を選ばずに言えば、「うわ、めっちゃ下手くそやん」と思ったわけです(笑)。

 じゃあ、それでブラジルが負けていたか、といえばそうじゃない。勝つんです。なぜ勝てたのかというと、ジバ(ジルベルト・ゴドイフィヨ)やダンチ(・アマラウ)といった技量の高いスパイカーたちが、うまくカバーし、トスが合わなかろうが得点にして、勝利につなげる。そうこうしているうちにブルーノは世界的なセッターへと成長していきました。

 ブラジルだけでなく、どの国にもこのタイミングが必ずあり、日本もまさに今がそうかもしれない。理想を求め、練習のなかでクオリティを求めるのは大事なことなので、そこは厳しくやるべきですが、試合ではチームとしていかに点を取るかに集中する。プレーの良し悪しにフォーカスするのではなく、もっと客観的かつ冷静に判断して、修正すべきところを修正して戦術を組み直す。それができるようになれば、ポーランドやブラジルなどの強豪国のように、「勝てるチーム」ではなく「負けないチーム」になれると思っています。

――「勝てるチーム」と「負けないチーム」の違いはどんなところですか?

福澤 負けないチームはいい時だけでなく、悪い時も修正して立て直せる。粘り強さに加え、「この1点は逃せない」というところは確実に取り切る。また話が戻りますが、当時のブラジルは世界ランキングも1位で「我々は世界トップなのだからどんなチームにも負けてはいけないんだ」というプライドがありました。

 日本も目指すところは同じで、今まさに、そのスタートラインに立っています。だからこそ、うまくいかない時も「あのパスが返らなかった」「あそこでいいトスが上がらなかった」と考えるのではなく、じゃあそうなった時にどうするかに目を向けることが重要。もちろん人間なので「あの1本が......」と思うのは自然な流れですが、うまくいかなかった時に何をすべきかという発想や感覚、マインドのスイッチを持つことも大切です。

――「個」としても強くなり、「組織」としても強くなる。世界トップに向けて着実に進んでいると捉えていいですか?

福澤 そう思っていただいていいし、そう思ってほしい。そしてそのチームの中心になるのが、石川選手と藍選手です。石川選手はパフォーマンスが上がりきっていませんでしたが、どんな状態でもチームにとって欠かせない選手であるのは間違いない。たとえスパイク決定率が30%だったとしても、石川祐希という選手がコートにいる重要性をどこまで示せるか。周りから見れば、石川選手がチームの柱であるのは揺るぎない事実なので、彼が与える影響力は非常に大きい。その分、石川選手が背負わなければならないプレッシャーも大きいのですが、彼ひとりで背負うものではなく、チームとして信頼関係を築くなかで、石川選手ももっと周りを頼っていい。

 ネーションズリーグでは藍選手の調子がよかったので、彼が引っ張っていたことも、チームにとっては大きな収穫です。世界選手権では石川選手もピークを合わせてくるはずですので、また新しい姿、戦い方が見られるのではないでしょうか。

つづく

後編>>「福澤達哉が語る世界バレー展望」


profile
福澤達哉(ふくざわ・たつや) 1986年7月1日生まれ、京都府出身。2005年、中央大学1年時に日本代表に初選出され、大学4年時の2008年北京五輪では清水邦広とともにチーム最年少で出場を果たした。翌年のワールドグランドチャンピオンズカップでは、32年ぶりの銅メダル獲得に貢献し、ベストスパイカー賞受賞。大学卒業後はパナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)に入団し、2009‐2010年シーズンと2011年‐2012年シーズンのVプレミアリーグ優勝に貢献。ブラジルやフランスでも経験を積み、現在はパナソニックグループに勤務するかたわら、解説者として活躍している。

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