がん公表の藤井直伸にチームの枠を超えたエール。五輪を戦った大塚達宣、清水邦広も「少しでもパワーを送れたら」 (2ページ目)

  • 中西美雁●取材・文 text by Nakanishi Mikari

坊主になった李博「藤井のために」

 藤井は今季から東レの主将を務めているが、本人の強い希望で主将の任は継続。現在もオンラインでミーティングに参加し、チームを鼓舞している。チームメイトである高橋健太郎は「コートにはいなくても、とても力になっている」と語った。高橋は、藤井が抜けたあとにセッターとのコンビがなかなか合わず、当初は「早く復帰してくださいよ」と伝えたこともあったという。事実を知った時には大きなショックを受けたが、篠田歩監督の「僕らの勝利が一番の薬になる」という言葉に共感し、前を向いた。

3月6日の試合の東レのベンチには、パナソニックから贈られた千羽鶴と藤井のユニフォームが photo by Kurobane Shiro3月6日の試合の東レのベンチには、パナソニックから贈られた千羽鶴と藤井のユニフォームが photo by Kurobane Shiroこの記事に関連する写真を見る 他の選手たちの反応もさまざまだ。藤井に代わって司令塔としてプレーする真子康佑は、「藤井さんのようにはなれない」と話しながらも、「とはいえ、藤井さんがいないから弱くなったとは言われたくない」と、自らの役割としっかりと向き合っている。

 藤井はチームが得点した時、劣勢になった時にも声を張り上げてチームを鼓舞するのが印象的な選手だ。その役割を少しでも果たしたいという姿勢が見えたのが若手のミドルブロッカー西本圭吾。西本はもともと声を出して場を盛り上げるタイプだが、「藤井さんの分まで盛り上げたい。それは少し体現できていると思います」と力強く語った。

 東レの"いぶし銀"、37歳の米山裕太は、藤井の病状を知った時のことを「ショックでしたね」と言葉少なに振り返った。「バレーボールができるのは当たり前じゃないと感じました。『自分も検診を受けたほうがいいかな』と率直に思いました」と自分の身に置き換えて考えたという。

 千羽鶴を受け取った李博は、藤井の同期たちと同じく坊主にした。日本代表でもともにプレーするミドルブロッカーとして、「自分は藤井とのコンビがあってこそ今がある。藤井のためにやれることにはいろんな選択肢がありますが、ちょっとでも藤井と一緒に頑張っているところを見せられたらと思ってこの髪型にしました」と坊主にした理由を話し、さらにこう続けた。

「初めて病気のことを聞いた時には固まってしまいました。もし自分が藤井だったら、自分のことしか考えられないと思う。でも彼は、チームの優勝のために行動しています。誰よりも優勝したいという気持ちが強い選手。悲しいですけど、藤井の夢、優勝したいという気持ちが僕にも響いた。藤井のために、勝利のために何ができるかを考えています」

 絶対的なコンビだった藤井が抜けたことで、李は出場機会が少なくなっているが、ベンチから見た相手のブロックの特徴などをチームメイトたちに伝えるなど、優勝に向かって献身的にチームに貢献している。

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