加藤未唯が「してはいけないことをしてしまった」と語る全仏のあの出来事 涙で言葉に詰まり...「もうテニスを辞めるしかないのかな」 (5ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • 説田浩之●撮影 photo by Setsuda Hiroyuki, Kyodo News

── そのなかでも、選手の多くがソーシャルメディア等で加藤さんを支持するコメントを発信しました。それらは慰めになりましたか?

「そうですね、いろんな人から励ましの言葉がありました。もしあそこで違うふうに言われていたら、もう(テニスを)やりたくないと思っていたかもしれないので、そこはうれしかったです。

 特に、尊敬しているある選手から『ぜんぜん悪くないよ』というメッセージをもらった時には、もちろん自分が悪いと思っていますが、『あそこまでの選手がそう言ってくれるなら、もしかしたらそんなに悪くないのかな』って少し思えたので......それはありがたかったですね」

── その後、どのタイミングで、混合ダブルスには引き続き出場できると知ったのですか?

「試合の数時間後に、スーパーバイザーとレフェリーに呼ばれて部屋に行った時に、ミックスダブルスには出られると言われました。

 失格になったあとは、もう日本に帰りたいとも思いました。航空券を探すまではしていなかったんですが、正直、ミックスダブルスのことはあまり考えられていなかった。なので『ミックスには出られるよ』と言われた時も、こんな状態で試合ができるのかな、試合をする気持ちになれるのかな......という不安はありました。

 実際に、試合をするという気持ちに持っていくのは、なかなか難しかったです。ただ、ここでやめたらミックスダブルスのパートナー(ティム・ブッツ/ドイツ)に申し訳ないとも思ったし、今後のキャリアに響くという思いもありました。

 ここでミックスダブルスまでやめるのは嫌だ、こんなかたちで終わりたくない......っていうのは、どこかで感じていたんだと思います。試合に出るチャンスがあるなら、『自分で自分の思いを主張できるところまでは行かないと、意味がない』という思いで、試合に向かっていました」

   ※   ※   ※   ※   ※

 その日の夜は、食事もろくに喉を通らなかった。「気持ちを切り替えることもできなかった」という。

 それでも翌日、彼女は混合ダブルス(準々決勝)のコートへと向かった。「自分で自分の思いを主張できるところ」──すなわち、表彰台を目指して。

(中編につづく)

◆加藤未唯・中編>>「失格後」の混合ダブルスにどんな思いで臨んだのか


【profile】
加藤未唯(かとう・みゆ)
1994年11月21日生まれ、京都府京都市出身。8歳からテニスを始め、2013年10月にプロ入り。2017年の全豪オープン女子ダブルスでは穂積絵莉とのペアでベスト4進出。2018年の東レPPOでは二宮真琴とのペアでツアー初優勝を果たし、2023年6月の全仏オープン混合ダブルスではティム・プッツ(ドイツ)とのペアでツアー2勝目。身長156cm。利き手=右、バックハンド=両手打ち。キャリア自己最高ランキングはシングルス122位、ダブルス30位。

プロフィール

  • 内田 暁

    内田 暁 (うちだ・あかつき)

    編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。

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