元ラグビー日本代表・畠山健介「自分の準備不足がチームに悪影響を及ぼしてしまった」2011年W杯 を振り返る (3ページ目)

  • 齋藤龍太郎●文 text by Saito Ryutaro
  • photo by アフロ

──トンガ戦(トンガ31-18日本)はいかがでしたか?

「途中までは勝利をたぐり寄せていましたが、勝てませんでした。トンガはワールドカップになると全く別のチームになる、と感じた試合でしたね。これは後に知ったことですが、パシフィック・ネーションズカップ(同年は日本、サモア、トンガ、フィジーが対戦。日本はトンガに1点差で勝利)とは違って、ワールドカップ本番は選手たちが活躍することで世界のマーケットに名前が出て、ヨーロッパのビッグクラブに入れる可能性が出てくるわけです。ワールドカップが選手個人のキャリアにつながり、そこで得たお金で家族を養えるようになる。選手のモチベーションが高いわけです。

 一方、僕らはどうだったかというと『マスト2ウィン』に向けて勝つイメージ、戦術は持っていたかもしれませんが、何のために勝つのか、何のために一生懸命歯を食いしばるのか、というところまでモチベーションレベルを上げられていたかというと、おそらくトンガに比べると上がりきっていなかった。それが集中力の差として表れ、後半突き放された要因になったと考えています」

──最後のカナダ戦は2007年大会に続きドローという結果でした(カナダ23-23日本)。

「最後の自分のペナルティで(PGを決められ)同点にされたので、責任を感じています。終わった後、JK(ジョン・カーワンHC)がみんなに挨拶しているなか僕には一言も口を聞いてくれなかったことは今でも引っかかっていますが、それ以上に、自分の準備不足がチームにまで悪影響を及ぼしてしまった、と強く感じた試合であり、大会でした」

──畠山さんを国際舞台へ導いたのはそのカーワンHCでした。

JKは『世界の大きな選手と戦うためにはフィジカルが重要』という方針を示していました。それは間違っていないと思います。2011年のワールドカップではキャプテンのNO.8(ナンバーエイト)菊谷崇さん、LO(ロック)北川俊澄さん、WTB(ウイング)遠藤幸佑さんなどの大柄な選手を選んでいました。ただ、フランスにはコンタクトで劣勢でしたし、ニュージーランドのスピードには対応できなかった。今思えば方針自体は間違ってはいないものの、課題はあったのではないかと思います」

──その4年後の2015年大会に向けては、2011年大会とは期するものが違いましたか?

「そうですね。エディー(・ジョーンズ)さんがHCになって、ワールドカップでベスト8を目指すことになりました。取り組みの中身や(チーム内での)プレゼンテーションなどが大きく変わり、試される部分も増えましたので、僕もワールドカップに出るだけではなく出て活躍することを目標にコミットしました。

 エディーさんがやりたいラグビーに自分がハマったのが大きかったです。PRとしての最大の仕事はスクラムであり、セットピースを安定させ、ドミネート(圧倒)することが求められたわけですが、エディーさんはフットボールの部分、つまり走り勝つことも求めていました。僕はどちらかというとセットプレーよりもフィールドプレーが好きでしたから、そういうラグビーと自分のスタイルがマッチして、成長する機会を与えてもらいました」

後編に続く>>元ラグビー日本代表・畠山健介が明かす2015年W杯南ア戦の裏側 フランス大会で日本は 「ベスト8ではないか」

【profile】
畠山 健介(はたけやま・けんすけ)
198582日生まれ、宮城県気仙沼市出身。ポジションはPR。地元の鹿折(ししおり)ラグビースクールで小2からラグビーを始める。仙台育英高では3年連続花園出場。高校、U19などユース日本代表も経験。早稲田大では1年から出場し、4年時は副将として全国大学選手権優勝に貢献。サントリーでも主力として活躍し、2008年日本代表デビュー。2011年、15年のラグビーワールドカップに連続出場。英ニューカッスル・ファルコンズ、米ニューイングランド・フリージャックスでもプレー。20225月、現役引退。日本代表78キャップは歴代5位。現在はグラスルーツレベルの指導、解説、テレビ出演など幅広く活躍中。

プロフィール

  • 齋藤龍太郎

    齋藤龍太郎 ((さいとう・りゅうたろう))

    編集者、ライター、フォトグラファー。1976年、東京都生まれ。明治大学在学中にラグビーの魅力にとりつかれ、卒業後、入社した出版社でラグビーのムック、書籍を手がける。2015年に独立し、編集プロダクション「楕円銀河」を設立。世界各地でラグビーを取材し、さまざまなメディアに寄稿中。著書に『オールブラックス・プライド』(東邦出版)。

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