鋭い観察眼と勘で勝つ。伊藤美誠が楽しむ卓球で異次元の強さを見せた (4ページ目)

  • 城島充●文 text by Jojima Mitsuru
  • 中村博之●撮影 photo by Nakamura Hiroyuki

■楽しんで勝つ。その先にあるもの

 14歳にして表彰台に立った木原は「私より下の年代の選手も必ず強くなってくる。今度は私が追われる立場になる」と、目線を下の世代に落とすことを忘れなかった。過去に4度も皇后杯を手にしている石川も「今は誰が勝ってもおかしくない」と、日本の女子卓球のレベルの高さにあらためて言及したが、そうした状況だからこそ、2年連続で頂点に上り詰めた伊藤のコメントはより注意深く耳を傾けるべきだろう。

「どの選手が私を倒しにきても、それ以上に私は楽しめたことが一番だったかなと思います」

 リオ五輪の最年少メダリストとして臨んだ2年前の全日本は5回戦で敗退。雌伏の時も経験した18歳の女王はこう続けた。

「もちろん勝ちたい気持ちはあるんですけど、『勝つ』という気持ちを強く持つよりも、楽しんだほうが勝てると思っています。今年の全日本も自分のプレーをして楽しもうと思っていたら、こうやって三冠を獲れましたから」

 男子シングルスで前人未踏となる10度目の優勝を飾った水谷隼(木下マイスター東京)は、同じ静岡県磐田市出身の伊藤のプレーを「全日本はひとつ勝つのも苦しい特別な大会なのに、彼女はすごく試合を楽しんでいる。本当に見習いたいことが多い」と評した。勝利への渇望にも勝る、卓球の楽しさとはいったい何なのか。

近い将来、伊藤はその命題とより深く向き合うことになるだろう。その答えを求め続けた先に、どんな未来が待っているのか。

 おそらく、過去の卓球人が誰も見たことがない風景を、彼女は目にするはずである。

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