全米プロ。松山英樹は「持てる者の悩み」を克服できるか (2ページ目)
その分、自分に課すものが増えた。「もっとこうしなければいけない」ということが、松山の中でどんどん多くなっていった。同時に、自分に対してすごく厳しくなり、より高いものを求めるようになった。プレイひとつひとつの精度はもちろんのこと、メジャーで勝つためには「完璧に自分を仕上げなければいけない」という使命感が一層強くなっていったのだ。全米オープンや全英オープンで、いいショットを打っているように見えても、本人は「ショットのフィーリングが合わない」とずっと不満をこぼしていたのが、その証だろう。
しかし、そこまで突き詰めてしまうと、ちょっとした違和感があるだけでも不安が増幅する。ほんの小さなミスをしただけでも、大きなダメージを受ける。例えば、「こうやって攻めよう」と思ったことが、少しでもうまくいかないと、「なんでこんなことができないんだ」と、自分に対する怒りがこみ上げてきて、そのあともズルズルと引きずってしまうことになる。おそらく、昨季までだったら「自分は下手だから仕方がない」と思って済まされたことが、だ。
松山が全米オープンや全英オープンで伸び悩んだ要因は、そこにある。完璧ではない自分に不安を抱えて思い切ったプレイができず、勝つために完璧を求めるがゆえに、ちょっとしたミスを引きずってしまった。要するに、精神的なコントロールがうまくできなくて、気持ちの切り替えもままならず、結果を出せなかった。メジャーを勝つためにはどうすればいいのか、それがわかっているからこその苦しみであり、レベルが上がったことによる難しさがあった。
そういう意味では、全米プロに向けて松山にとって大事なことは、"ウイナーズ・サークル"の一員として、プライドを持ってプレイしながらも、失敗を恐れずに戦うことだろう。そして、自分で自分をあまり追い詰めないで、思い切りのいいゴルフをすることが大切だ。
あとは、ミスをしても引きずらずに、瞬時に気持ちを切り替えること。やはり強い選手というのは、それがうまい。かつて、タイガー・ウッズと一緒に回ったジャック・ニクラウスは、ラウンド後、タイガーの印象を聞かれてこんなことを話していた。
「タイガーは、ミスをしたときにカーッとなって怒るけど、2秒で(気持ちの)切り替えができる。その辺は、僕に似ていたね。一瞬でミスを忘れて、次の一打のこと、ゲームのことに集中できる。そこが彼の強さのひとつなんじゃないかな」と。
2秒とは言わないが、今の松山が結果を出すためには、気持ちの切り替えがうまくできるかどうかが、大きなポイントになるだろう。
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