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マンチェスター・ユナイテッドに巻き返しの兆し カギはブルーノ・フェルナンデス

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第45回 ブルーノ・フェルナンデス

 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。

 今回は、ヨーロッパリーグ(EL)の劇的勝利でベスト4進出の、マンチェスター・ユナイテッドのキャプテン、ブルーノ・フェルナンデス。超テクニシャンかつファイターである彼が、今季低迷したチームの巻き返しのカギを握ります。

マンチェスター・ユナイテッドのキャプテン、ブルーノ・フェルナンデス photo by Getty Imagesマンチェスター・ユナイテッドのキャプテン、ブルーノ・フェルナンデス photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る

【水と油の奇跡的な融合】

 転機になる一戦だったかもしれない。EL準々決勝、マンチェスター・ユナイテッドはホームの第2戦でリヨンを下した。90分間では2-2の引き分け。2試合合計4-4で延長に突入すると、リヨンが2ゴールをゲット。しかし、ここからユナイテッドの猛反撃が始まり3点を連取。最後の勝ち越しゴールは延長アディショナルタイムの121分だった。

 劇的も劇的。ユナイテッドは2点を先行して追いつかれ、さらに後半の最後に相手が退場者を出していたにもかかわらず、延長で2点を献上。しかしそこから怒涛の3得点という、何とも目まぐるしい展開である。

 まさに「夢の劇場(シアター・オブ・ドリームス)」と呼ばれるオールド・トラッフォードに相応しい激闘だったわけだが、途中で夢ではなく悪夢の劇場になりかかっていた。それをぎりぎりでひっくり返したのは奇跡的で、現在のユナイテッドにはこれが必要だったのではないかと思うのだ。

 マンチェスター・ユナイテッドの栄光はいくつもの奇跡によって築かれてきた。

 ミュンヘンでの飛行機事故(8名の選手が亡くなった)から復活しての欧州王者(1968年)、1999年に三冠を達成した時のカンプ・ノウの奇跡(チャンピオンズリーグ決勝の大逆転勝利)が有名だが、理屈では説明がつかない何かを起こす、あるいは起こせると信じているメンタリティが独特なクラブである。

 今季、シーズン途中から指揮を執るルベン・アモリム監督は、ある意味ユナイテッドの体質から最も遠い指導者だろう。

 リヨン戦はアモリムのサッカーがよく表われていた。

 3-4-2-1のフォーメーションは攻守によく整理されていて、よくも悪くも非常に静的なプレースタイルである。例えば、2ボランチを組むカゼミーロとマヌエル・ウガルテの位置関係がまったく変わらない。右がカゼミーロ、左がウガルテ。流れのなかで入れ替わりがちなボランチのポジションでこれなので、他も選手の位置関係がほとんど変わらない。厳格なポジショニングを維持してのビルドアップは洗練されていて、守備ブロックも整然としている。

 もともとオランダをルーツとする戦術であり、位置関係が非常に合理的なのだが、カオス上等のユナイテッドの伝統からすると水と油で、むしろ同じ街のライバル、マンチェスター・シティのほうが相性のよさそうなサッカーと言える。

 2-0まではアモリム戦術のよさが出ていた。途中からはリヨンに保持されて押し込まれていたが、効果的なカウンターも繰り出している。ただ、それで3点目が取れればよかったのだが、取れずにカウンターばかりでボール保持ができず、試合をコントロールできなかった。このあたりはまだアモリム監督のスタイルが浸透しきっていない感は否めない。

 しかし、延長で2点をリードされてから別の顔を見せた。熱に浮かされたように反撃を開始、勢いで10人の相手を押しきっての3ゴールはアモリムのプログラムにはないユナイテッドの伝統だ。水と油の奇跡的な融合があった。

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著者プロフィール

  • 西部謙司

    西部謙司 (にしべ・けんじ)

    1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。

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