プレミアリーグに冠たるモハメド・サラー ストリート育ちの最後の世代になるかもしれない別格の名手 (3ページ目)
【アドバンテージは自由にボールに触れる圧倒的な時間】
現代のトリッキーなプレーのほとんどを1960年代に披露したペレは、ストリートで育った。フランツ・ベッケンバウアーはユース代表でデットマール・クラマーから初めて戦術を教えられたが、それ以前にすべて身につけていて知らないことはなかった。
カルロス・バルデラマはドリブルとショートパスだけのプレーでストリートから南米最高のプレーメーカーになっている。ジネディーヌ・ジダンは団地の中庭で、バカンスに出かけない長い長い夏をサッカーで過ごした。クレールフォンテーヌに入所する前、アンリは甥っ子たちとカルフールの駐車場でカートをゴールにして遊んでいた。
サラーは娯楽のない町で、朝から晩までボールを蹴っていた。
ストリートフットボーラーのアドバンテージは、自由にボールに触れる圧倒的な時間だ。試合に勝つための決められたトレーニングを2時間だけする選手たちとは、ボールに向き合う時間の桁が違う。そこで育まれた個性は、画一的に量産された選手たちとは決定的な差が生じる。
サラーはペレのように、ジダンのように、自分のプレーが確立されている。その駆け引き、アイデア、精度は、リバプールの極めて優秀な戦士たちのなかでも際立っていて、サラーの周囲だけ世界が違うようにさえ見える。
トッププロのトレーニングでもエコロジカルメソッドが注目されていて、言わばストリート的な要素をいかに採り入れるかという試みなのだが、効果のほどはよくわからない。もしかするとサラーはストリート育ちの最後の世代になるかもしれない。
著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。
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