プレミアリーグに冠たるモハメド・サラー ストリート育ちの最後の世代になるかもしれない別格の名手
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第35回 モハメド・サラー
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。
今回は、今シーズンのリバプールでも抜群の存在感を見せている、モハメド・サラーを取り上げます。あの唯一無二のプレースタイルはどうやって身についたものなのでしょうか。
【別格の名手】
モハメド・サラーはエジプトの生きる伝説である。2018年の大統領選挙では得票数で2位だった。もちろん、サラーは大統領選に立候補などしていない。投票用紙に「サラー」と書きたかった人がいたということだ。
リバプールで活躍するモハメド・サラー。バロンドールの有力候補だ photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る サラーの財団は生活困窮者へ食物や金銭を提供し、学校、水処理施設、救急ステーションを建設した。エジプトの学校ではそのサクセスストーリーが教えられているそうだ。
2012年2月、エジプトリーグの試合で暴動が発生し、リーグが中止された。有名なポートサイドスタジアムの暴動だが、それを機にサラーはコントラクターズからスイスのFCバーゼルへ移籍した。2012-13シーズンの優勝に貢献してプレミアリーグのチェルシーへ。
しかし、チェルシーでは出場機会をなかなか得られず、フィオレンティーナ、ローマへの期限付き移籍を経てリバプールに加入する。このあたりの活躍ぶりは今さら振り返るまでもないだろう。
今季、プレミアで首位を走り、CLリーグフェーズでも首位。好調リバプールにおいてサラーは絶対的な存在だ。プレミア21ゴールは得点ランキングのトップ、アシストもすでに13を記録している(第24節終了時)。
リバプールが好調なのは、ユルゲン・クロップ前監督時代のスーパーアグレッシブなプレースタイルにアルネ・スロット新監督が新たな秩序を導入し、それがうまくはまったからだが、サラーがいなければまた別の結果になっていただろう。別格の名手であり、次のバロンドールを獲得する可能性はかなり高いはずだ。
サラーの自宅にはリカバリー用に最先端の設備があり、まるで病院のようだというが、32歳にして自分への投資と自己研鑽に邁進する姿勢はクリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシにも共通する現代の模範的アスリートでチャンピオンそのものだ。
ただ、サラーの核になっている部分は、おそらく少年期に作られたものだと思う。
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著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。