鹿島アントラーズ・小泉社長が考える地域貢献とIT施策のスタジアム活用法。「大きなラボとして、近未来を見せることができる」 (2ページ目)
社長就任会見では、「ホームタウン移転」について問われていたが、鹿行地域に存在する鹿島アントラーズの意味の重さを熟知している小泉は、それを否定した。そこには彼が体験してきたJリーグが持つ力というロマンだけでなく、小泉のビジネスパーソンとしての大きな目標があった。
若いメルカリという企業にとって、鹿島アントラーズが持つブランド力が大きな魅力だったに違いない。スポンサーになった当時メルペイなどの金融サービスを始めるうえで、信用力強化につながるからだ。同時にメルカリのメインターゲット(20代、30代女性)とは異なる鹿島のメインユーザー(40代男性)へのアピールの場としても鹿島やJリーグは大きな可能性を秘めるマーケットだっただろう。
しかし、それ以上に小泉をひきつけたのは、彼が持つ「スマートシティ化」という「街づくり」への夢実現だったのではないかと思う。
「2000年代以降、ITにより、人々の生活、社会は大きく変わりました。今後もそれは加速していくでしょう。ネットワークにつながることで、生活や街がどんどん変わっていく未来が予測できます。僕にはテクノロジーで社会をよりよいものにしたいという想いがあります。
でも僕は政治家ではないので、経営者の立場からフットボールクラブをアップデートし、地域にも貢献していきたい。それはJリーグの理念にも近いと感じています。スマートシティというと、行政によるコンセプト主導の近未来的な話が多く実現性が乏しいと感じています。渋滞解消やスタジアム内での生体認証によるキャッシュレス化など、ラボとしてスタジアムを使い、いろいろな施策を実施する。一つひとつは小さくても、10年経ったときにスタジアムで実験したものが一般化していき街がスマートになっているというのが、正しいアプローチだと僕は考えています。
人口減少のなかで、課題がたくさんある地方都市ほど、テクノロジーの恩恵を受けやすい。ならば、地域の課題解決の支援を行なうというスポーツクラブとしての新しい地域貢献ができると思っています」
小泉の社長就任後、社内でのIT推進を進めていた最中、コロナ禍に見舞われる。コロナ禍は、クラブ収入の3本柱といわれるスポンサー収入、グッズ収入、チケット収入を直撃した。いちはやくふるさと納税制度を使ったクラウドファンディングを実施し、1憶3千万円を集めた。ほかにもオンラインライブイベント「鹿ライブ」でのギフティング(投げ銭)や鹿行の「食」を届けるプロジェクト、地元自治体や企業のDXコンサルタント事業やパートナー企業のビジネスマッチングなど、さまざまな施策を始めている。親会社がメルカリに変わったことで、スピード感を持って実施できた。それは収入の第4の柱となるノンフットボール事業の後押しにもなった。
「数年かけてやっていこうと思っていたことがどんどん進んでいきました。収入的にはもちろん厳しいです。でも、ここで培った時間があったからこそ、アフターコロナの時代に向けていい方向へ進んでいけると感じています。『こういうことがやりたい』というアントラーズのスタッフの声に、『だったらこんなやり方がある』とメルカリ側が提案できる。サッカー業界とインターネット業界がぶつかることで、かなりいい化学反応が起こっていると感じています。それは相互にリスペクトしながら1年間やってきたことは、すごく大きいなと思います」
小泉は就任後の危機についてそう振り返っている。
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