鹿島アントラーズ・小泉社長が考える地域貢献とIT施策のスタジアム活用法。「大きなラボとして、近未来を見せることができる」 (3ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • photo by Kyodo News

 そして、クラブ創設30周年となった10月1日、鹿島アントラーズはVISION KA41のアップデートを発表した。VISION KA41とはクラブ創設50周年となる2041年にどのような姿であるべきかを描き、そのためになにをすべきかという指針を示したものだ。10年前の2011年に初めて発表されたビジョンは、デジタルという武器を持つメルカリのもとでさらにブラッシュアップされている。

 そのなかで注目を集めたのが、THE DREAM BOX(新スタジアム構想)だった。しかし、発表では5年後を目途に方針を決定して、完成は10年後とされており、新築か改築かという議論も、建設場所も未定。それでもサポーターたちのリアクションは大きかった。なかには、移転するのではないかという不安を抱く人たちもいただろう。しかし、スタジアム建設は鹿島アントラーズが単独で実現できるものではない。地元自治体のサポートがなければ、資金的にも難しいはずだ。

 なぜ新スタジアムなのかという大きな理由は、スタジアムの老朽化問題がある。2011年の東日本大震災の影響だけでなく、海風による塩害も大きい。メンテナンス費用もさることながら、安全性を考えたとき、永遠にこのままでよいわけではないのだ。1990年のワールドカップイタリア大会開催時に新築、改築されたスタジアムが多いイタリアでも、老朽化した施設の課題は論じられてきた。しかし、日本同様に自治体の持ち物が多いことが新スタジアムにとっての高いハードルになっている。メンテナンス状態の差こそあれ、日本もそういう課題に直面する時が来ると思ってから、すでに数年が経った。同時にスタジアムが担う役割の変化もあると小泉は考える。

 従来日本のスタジアムは、スポーツ競技を実施するための役割が重視されてきた。だから、多くのスタジアムがその下にある法律では、火器の使用ができない(よって温かな食事が作れない。カシマスタジアムはその法律下にはないので、豊富なスタジアムグルメを楽しめる)など、観戦者にとってもスポーツを見るだけの場所だった。しかし、それでは維持費を賄うだけの収入を手にするのは困難だろうし、自治体への負担(税金の流出)は大きくなるばかりだ。

 2006年、茨城県は鹿島アントラーズをカシマスタジアムの指定管理者とした。管理者への委託費の支払いはあるものの、県は維持費の赤字を大きく圧縮できる。指定管理者となった鹿島アントラーズは、スタジアムを維持し、同時に収益性の改善にも取り組んできた。試合のない日にも地元の人々によって賑わう場所にしようと様々な施策を行なっている。

 それでも限界は多い。

 欧州のサッカースタジアムの多くでは、高額なチケット代(年間契約の場合が多い)を支払うVIPへのサービスに力を入れている。試合開始の数時間前から専用のラウンジで食事やアルコール類を提供し、試合後には選手が挨拶に訪れるクラブもある。しかし、日本のスタジアムではそういう空間が限られている。購入したいという企業や顧客がいても、場所がないからだ。

 いわゆるホスピタリティという面で、日本のスタジアムはまだまだ使い勝手が悪い面は否めない。エスカレーターやエレベーターなどのバリアフリー設備も足りないだろう。

 スタジアムにはスポーツを実施したり、観戦したりするだけでない可能性が秘められている。マッチデー以外にも人が集まる場所、スタジアムをハブとした地域社会活性化をアントラーズが取り組んでいくのもVISION KA41には盛り込まれている。

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