徳島ヴォルティスが土俵際で残った理由。「ボールを持つ」を捨てなかった
J1残留をかけた直接対決、第36節終了時点で15位の湘南ベルマーレは本拠地に17位の徳島ヴォルティスを迎え、0-1と敗れている。この結果、引き分けでも優位に立てていたはずの湘南は残留に足踏み。ひとつ順位を落とし、薄氷を踏む勝利を挙げた徳島に勝ち点36で並ばれた。
最終節を前に、横浜FC、ベガルタ仙台、大分トリニータはすでに降格が決定。16位の清水エスパルスが劇的勝利で勝ち点を39に伸ばして15位に浮上し、残りひとつの「降格」をめぐる争いは混沌さを増している。清水、湘南(得失点差で徳島を上回る)は勝てば自力でほぼ残留が決まるが、負ければ真っ逆さまの可能性がある。
なぜ湘南は苦杯をなめ、徳島は土俵際で残ったのか――。その検証は、残留戦の行方も占うことになるだろう。
湘南ベルマーレ戦で貴重な決勝ゴールを決めた岸本武流(徳島ヴォルティス)この記事に関連する写真を見る 11月27日、平塚。四字熟語を代名詞に、湘南の選手がモニターに映し出され、スタジアムDJのアナウンスが入り、スタンドは拍手とハリセンで応えていた。お馴染みの光景だが、「負けられない」という独特の緊張感が滲(にじ)む。この試合を前に、ブラジル人MFオリベイラを心臓発作で失った悲しみと混乱も混ざっているのか、スタンドに陣取る関係者の顔はこわばっていた。
「打て!打て!打て!打て!打て!」
会場の一角では、レゲエグループの演奏が会場を盛り上げ、勢いをつけようとしていた。
試合開始直後から、湘南は消極的に見えた。後ろが重たく、前線のプレスも弱かった。ボールの出どころを抑えられず、ペースをつかめない。「引き分けでも優位」という有利な状況が「安全に」と気持ちにブレーキをかけ、出足を鈍らせたのだろうか。
「僕たちは最初の入りから、気持ち的に守りに入ってしまいました。ボールを奪うべきところではまらず、"アグレッシブに走って戦う"という自分たちの良さを出せなかった」(湘南・舘幸希)
一方の徳島も慎重な立ち上がりだった。彼らの場合、「負けたら終わりでミスはできない」という違う種類の重圧があった。
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