14年前に全国V。野洲高の10番はなぜプロ入りしなかったのか (4ページ目)

  • 鈴木智之●取材・文 text by Suzuki Tomoyuki
  • 高橋 学●撮影 photo by Takahashi Manabu

 前半9分のプレーだった。ペナルティーエリアの外で味方からの落としパスを受けた平原は、全速力で駆け上がる楠神に向けて、浮き球でバックスピンをかけたパスを出した。楠神のスピードを殺さない、定規で測ったかのようなパス。時間と空間を操る、才気あふれるプレーだった。

「高校サッカーを変える」を合言葉に、誰も見たことのない革新的なスタイルで日本一に輝いた野洲高。"セクシーフットボール"の中心として活躍した平原にとって、高校3年間はどんなものだったのだろうか。

「高校時代は、それまでやってきたことが報われた3年間だったと思います。小中の頃は怒られながらプレーすることが多く、サッカーを楽しいと思うことは少なかったんですけど、それでも続けてきて、最後はみんなで優勝できた。サッカーをやってきてよかったなと思いました」

 優勝したメンバーは、それぞれが異なる個性の持ち主だった。ゴールに向かって一直線に進む青木が最前線にいて、楠神と乾の両サイドはスピードとテクニックで相手の守備を無力化した。中盤の底ではキャプテンの金本が長短のロングパスで攻撃をリードし、相手ゴールに近い位置では、平原のパスが猛威を奮った。

 異なる個性を持った選手がひとつの画を描き、イメージが結実した時にすばらしいプレーが生まれる。野洲スタイルが、今でも多くの人の記憶に焼きついているのは、誰も見たことのないイメージを全員で具現化したからだろう。その中心にいたのは、間違いなく背番号10だった。

4 / 6

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る