U-23日本代表、ブレない采配でイラクを撃破しパリ五輪出場決定 チャンス均等で生まれた「ノリ」のよさ (3ページ目)
ここまで唯一、ノリがいいとは言えなかった細谷も、前戦のカタール戦で挙げた大会初ゴールに気をよくしたのか、先制点のシーンでは鮮やかなターンを決めた。藤田譲瑠チマの縦パスも上等だったが、相手のマーカーをいなすようにクルリとターンし、右足のインサイド付近で冷静に流し込んだ細谷の身のこなしは、それ以上だった。
藤田は追加点のシーンでもラストパスを決めている。左で粘った大畑歩夢から横パスを受けるや、荒木にダイレクトで送ったラストパスである。中盤に優秀な人材がひしめき、"中盤王国"と言われたかつての日本を彷彿させるかのような、技巧的なパス交換だった。この手のプレーができるのは、やはりアジアのなかでは日本ぐらいではないだろうか。
また、荒木は面白い存在になっている。4-3-3のインサイドハーフというより、4-2-3-1の1トップ下。FW色、アタッカー色が増した。このポジションの選手に求められるのは、狭いスペースで短時間に高度な技巧を発揮する"瞬間芸"だ。今季のJ1リーグではこれまで6試合に出場し5ゴールを挙げているが、MF色の濃い古典的な10番から、FW化を促進させたことが、ひと皮剥けた大きな要因だと見る。
細谷の先制点は中央攻撃。荒木のゴールはサイド攻撃半分、中央攻撃半分という感じだったが、やはり日本に不足気味なのは真んなかを突く攻撃だ。今後に向けてチームとして追及すべきは、左右、中央と3つある攻撃のルートをいかにバランスよく突くか、になる。
いい攻撃で終わることが、いい守備につながる。いい攻撃で終われないと、守備が危うくなる。前半の日本と後半の日本をそれぞれ短く評価すれば、そうなる。
今後、望まれるのはポストプレーが得意な選手だ。本大会でオーバーエイジ枠を使うなら、ラツィオで復活傾向にある鎌田大地は有効な駒になると見る。これから18人のメンバーにどう絞り込んでいくか。五輪で結果を残したいのであれば、知恵を絞るしかない。
著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
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