日本代表のドイツ戦勝利はなぜ生まれたか。采配のスピード感と選手交代5人制の新ルールが最大限に生かされた (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by JMPA

ドイツを混乱させた怒涛の選手交代

 34対66程度に回復した力関係に基づけば、ドイツに惜しいシュートが連続すれば、確率的に日本にもチャンスが巡って来る。だが同点、逆転弾が生まれた最大の原因は何かと考えたとき、もう少ししっくりくるのは選手交代だ。3バックへの移行というより、布陣変更を伴う戦術的交代である。さらに言うならば、采配のスピード感と選手交代5人制の新ルールを最大限活用することができた点にある。

 後半30分、三笘から南野拓実を経由して、堂安が同点ゴールを蹴り込む直前に、森保監督は4枚目、5枚目の交代カードを切っていた。

 田中碧に代え堂安律。酒井宏樹に代え南野。守備的MFと右ウイング、右SB(WB)と左ウイングの交代という、日本人でもほとんどみたことがない交代を、怒濤の勢いで行なった。

 繰り返すが、三笘を左のWBで使ったり、鎌田をその過程のなかで左ウイングに置く采配には、いまとなっても首を捻りたくなる。だが、そこに目を瞑りたくなるスピード感と大胆さがあったことも事実。ドイツを慌てさせるに十分な采配だった。選手交代が遅く、満足に5人代えられないこともあったこれまでの森保采配とは180度違っていた。W杯アジア最終予選の前半の戦い、さらには東京五輪の戦いはその典型になるが、森保監督のこのドイツ戦は当時とはすっかり別人になっていた。

 森保ジャパンの試合を見慣れているはずのこちらでさえ、誰がどのポジションにいるか、選手交代のたびに混乱した。南野はどこに入ったのか。鎌田はどこへ行ってしまったのか。ノートに布陣を整理するまで、いつになく時間を要すことになった。ピッチを俯瞰できないドイツベンチなら、なおさらだったのではないか。その混乱ぶりは容易に想像できた。

 想起するのはヒディンク・マジックだ。戦術的交代を駆使し相手を混乱に陥れる采配を世に普及させたオランダ人の元韓国代表監督、フース・ヒディンクが、2002年日韓共催W杯決勝トーナメント1回戦対イタリア戦で見せた采配だ。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る