検索

NPB復帰を目指す倉本寿彦、34歳の今 「挑戦できる環境があること自体、すごく幸せなこと」

  • 村瀬秀信●文 text by Murase Hidenobu

倉本寿彦インタビュー(後編)

前編:元ベイスターズ倉本寿彦が培った「3ミリの成長」はこちら>>

 昨年からNPBのファームにできた新球団・くふうハヤテベンチャーズ静岡でプレーする元横浜DeNAベイスターズの倉本寿彦。昨季は開幕から好調で、一時はウエスタン・リーグの首位打者にも名を連ねるほどだった。その好調を支えていたのは、何よりもメンタルの安定だったという。

 とはいえ、シーズン中はいくつも危機があった。なかでも最大のピンチは、4月に負った脇腹の故障だ。症状は重く、復帰の見込みはNPB復帰期限である7月。現実的に考えれば、いくらファームで結果を出していても、ケガから復帰直後のベテラン選手がNPBに戻るのは絶望的だった。ケガをした時点で、気持ちが切れてしまってもおかしくなかった。

オフは積極的にイベントに参加した倉本寿彦 写真提供/倉本寿彦茅ヶ崎後援会オフは積極的にイベントに参加した倉本寿彦 写真提供/倉本寿彦茅ヶ崎後援会この記事に関連する写真を見る

【あっ、もうこれはダメだ】

「苦しかったのは事実です。でも、悔しさや焦りのなかで、どこか『やってしまったものは仕方ない』と開き直れた部分があったんです。脇腹の痛みがほんとにひどくて、咳をするだけでも激痛が走る。『あっ、もうこれはダメだ』と、逆に割り切れたのかもしれません。

 でもそれ以上に試合から外れたことで、普段あまり関わることのなかったスタッフや控え選手、ピッチャーたちとコミュニケーションがとれた。その時間が、自分にとってすごく大きかったんですよね。落ち込むどころか、むしろ前向きな気持ちでいることができた」

 以前の倉本は、ネガティブなことに直面すると、自分をギリギリまで追い込む傾向があった。1試合、1打席で結果を出さなければならない立場だったこともあり、余裕を持てず、感情を整理する間もなく、「とにかくがむしゃらにやるしかない」と無理をしてしまう。

 いま振り返れば、そんな自分に「もう少し周りを見てみろよと言えるかもしれないですね」と、倉本は言う。

 離脱中、倉本は試合の間、スコアボードのアウトカウントの操作を任されたこともあった。「えっ?? クラちゃん、何やってんの?」と球団社長が驚いて声をかけてきたほどだ。ケガでベンチを離れているベテランがそこまでやる義務はない。

1 / 3

著者プロフィール

  • 村瀬秀信

    村瀬秀信 (むらせ・ひでのぶ)

    1975年生まれ。神奈川県出身。茅ケ崎西浜高校野球部卒。主な著書に『止めたバットでツーベース 村瀬秀信 野球短編自撰集』、『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史』、『気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』など。近著に『虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督』がある。

フォトギャラリーを見る

キーワード

このページのトップに戻る