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つば九郎が語っていた夢「いしかわくんの200しょうのはなたばをわたすこと」連載担当記者が振り返る取材の思い出

  • 長谷川晶一●文 text by Hasegawa Shoichi

  ヤクルトの人気マスコット「つば九郎」の担当スタッフが死去したことが、2月19日に発表された。スポルティーバでは2022年9月から1年以上にわたり『つば九郎の人生相談〜とりですが。』の企画を連載していた。今回、連載に関わっていた長谷川晶一氏に、取材時の思い出を振り返ってもらった。

ヤクルトの人気マスコットとして絶大な人気を誇るつば九郎 photo by Sano Mikiヤクルトの人気マスコットとして絶大な人気を誇るつば九郎 photo by Sano Mikiこの記事に関連する写真を見る

【つば九郎の「話し相手」として...】

 スポルティーバ編集部から連絡をもらったのは、2022年9月のことだった。そこには、こんな内容のことが書かれていた。

「今度、『つば九郎の人生相談〜とりですが。』連載が始まります。先日、最初の取材を行ったのですが、つば九郎の話し相手がいたほうが会話も盛り上がり、いろいろな回答が引き出せると思うので、ぜひ次回から取材現場に同席していただけませんか?」

 こうして僕は「つば九郎の話し相手」として、この連載に関わらせてもらうことになった。それまで、神宮球場ではいつもその姿を見ていた。あるイベントで一緒になったこともあった。だけど、じっくり向かい合うのは初めてのことだった。長年ライターを続けてきたけれど、マスコットに話を聞くのも初めての経験だった。こうして僕は、若干の緊張感とともに神宮球場に向かった。

 指定された部屋で待っていると、大きなおなかを左右に揺らしながら、つば九郎が現れた。慌てて立ち上がり、あらためてあいさつをする。すると、つば九郎は突然、不思議なジェスチャーを始めた。自分の右手で左手前腕部をポンポンと叩き、そして僕のことを指さすのだ。そんな動作を何回も繰り返している。

 はじめは意味がわからなかった。キョトンとしていると、今度は鉛筆を持って何かを書いているジェスチャーも加わった。そうして、ようやく理解した。それは「いつも読んでるよ、なかなか腕がいいね」という最大の賛辞だったのだ。一瞬にして心をわしづかみにされた瞬間だった。以来、2カ月に一度程度の頻度で、神宮球場の一室でつば九郎と向き合うことになった。

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著者プロフィール

  • 長谷川晶一

    長谷川晶一 (はせがわ・しょういち)

    1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

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