奥川恭伸、涙の980日ぶり勝利の陰で 長岡秀樹、武岡龍世、大西広樹...ヤクルト2019年ドラフト組の「再会物語」 (4ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya

 大西のここまでのキャリアには、努力と研究がにじみ出ている。新人合同自主トレの400メートル×3の1200メートル走では、奥川、長岡、武岡に周回遅れだったこともあったが、コツコツと信頼と実績を積み重ねてきた。

 1年目は148キロだった球速は年々アップ。今では最速154キロとなり、150キロ台の真っすぐの割合も多くなり、球種、登板数も年々増えている。

「球種は増えたというより、たとえばスライダーなら、曲がりをちょっと小さくしたりとか、いろいろ変えています。ここまで毎年、新しいことに挑戦しようとやってきました。それがよくなっている部分だと思います。まずは1年間ずっと一軍にいたことがないので、それを目標に、来年、再来年とまた新しいことに挑戦していくという感じですね」

 今年は、ここまで30試合に登板して4勝1敗、防御率1.13。ブルペン陣の縁の下の力持ち的な存在だが、自分のことを「緊張しい」だという。

「でも緊張はいいことだと思っているので。緊張にも、いい緊張と悪い緊張があって、今は冷静かつ視野が広く、アドレナリンがすごく出て自分の力が発揮できるいい緊張のつくり方ができているのかなと。投げるポジションは、とりあえず(目指すところは)ないので、いつでもどこでも投げられるように準備しておきます(笑)」

 今回、奥川に話を聞いたのは、涙の復活勝利から数日後、戸田球場に隣接する陸上競技場だった。奥川が2年間リハビリを続けた場所でもあった。

「最初は僕がみんなよりちょっと早く活躍できて、それをどういうふうに感じていたのかはわからないですけど......そのあと僕がケガをして、本当に一時期は同級生や同期入団選手の活躍すら喜べない状態でした。そういう思いがずっとあったんですけど、この間の試合でようやくそういった気持ちがなくなって、みんなと一緒に戦うことができました」

 そう語る奥川の表情は、2年間の苦しみから解放されたのか、戸田の青空のように晴れ渡っていた。そして「一緒に喜び合うことは、こんなに幸せなことなんだなって」と言葉を噛みしめた。

「これから先、ああいった試合が増えたらうれしいですよね。たとえば優勝したりとか。みんなでチームを引っ張っていけたらうれしいですし、2019年ドラフト組が本当に頑張ったよね、と言われるようになりたいですね。"したい"というより、"なったらうれしい"。そう思います」

著者プロフィール

  • 島村誠也

    島村誠也 (しまむら・せいや)

    1967年生まれ。21歳の時に『週刊プレイボーイ』編集部のフリーライター見習いに。1991年に映画『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台となった野球場を取材。原作者W・P・キンセラ氏(故人)の言葉「野球場のホームプレートに立ってファウルラインを永遠に延長していくと、世界のほとんどが入ってしまう。そんな神話的レベルの虚構の世界を見せてくれるのが野球なんだ」は宝物となった。以降、2000年代前半まで、メジャーのスプリングトレーニング、公式戦、オールスター、ワールドシリーズを現地取材。現在は『web Sportiva』でヤクルトを中心に取材を続けている。

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