奥川恭伸、涙の980日ぶり勝利の陰で 長岡秀樹、武岡龍世、大西広樹...ヤクルト2019年ドラフト組の「再会物語」 (3ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya

 奥川は、マウンドのうしろに長岡と武岡が守っていたことについて、「今どきの言葉で言うと、ちょっとエモいというか、とにかく楽しかったです」と笑顔を見せた。

「ふたりともすごく頼もしかったですし、秀樹と武岡とグラウンドに一緒に立って、ピンチではマウンドに集まって話をして......。攻守交替でふたりを迎えてハイタッチするとか、本当にうれしかったですね」

 2回裏、ベンチを出た奥川と長岡は話し合いながら守備位置に向かう。長岡が奥川に向かって腕を前に突き出して、ショートの守備位置につく姿が強く印象に残った。

「あの時は、ランナーなしでもクイックをするのかしないのかといった実務的な話でした(笑)。でも、本当にふたりの表情が印象的で、僕と同じこと......ようやく3人一緒に同じ舞台に立てたと思ってくれているのかな。そう思うと本当に楽しかったですね」

 そして、「それは今までとは違う楽しさでした」と言った。

「一緒に戦う楽しさというか、とくに秀樹の表情はむちゃくちゃ印象的でした。僕は交代してベンチに下がっていて、秀樹が守備から帰ってきたときに『守りきったぞ』みたいな表情だったんです(笑)。それが今も記憶に残っています」

 奥川は5回を投げきり、勝利投手の権利を得てマウンドを降り、あとを引き継いだのが大西だった。3人の打者をわずか9球で抑え込んだ。

「大西さんは大卒で、ずっと僕らのお兄さん的存在だったので、マウンドに立っている姿を見て『やっぱりお兄さんだな』って感じがしました。秀樹や武岡とは違う頼もしさで、『なんかいいな』と思いながら見ていました。試合中、投げ終わってからはずっと隣にいてくれて、些細なことですけど、それが本当にうれしかったです」(奥川)

【奥川のために最善を尽くそう】

 その大西は、14日の試合についてこう振り返る。

「自分は大卒で入って、みんなよりも早く一軍で......という気持ちが強かったです。でも、下でもがいている秀樹や龍世を見ていましたし、『オレらで頑張ろう』って声かけはずっとしていたので、やっとそれが叶ったんだなって。奥川はリハビリ期間が2年もあって一番苦しい思いをしているので、6回を任されたときに奥川のために最善を尽くそうという気持ちになりましたね。3人とも年下ですけど、いい戦友というか、一緒に戦っていて楽しかったです」

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