【MLB】大谷翔平が再び踏み出した「二刀流」 投手復帰3試合目でメジャー自己最速の101.7マイルが出た要因とは?
制限のあるなかでも超大物ぶりの投球を見せる大谷翔平 photo by Getty Images
前編:大谷翔平、「二刀流」本格復活への序章
ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平が「二刀流」復帰早々からその凄みを見せつけている。投手としての復帰3試合目のカンザスシティ・ロイヤルズ戦では、メジャー自己最高球速を計測。限られた投球数のなか、右肘の様子を見ながらのピッチングにもかかわらず、なぜ想定以上のパフォーマンスとなっているのか。
大谷本人やチームメートのコメントを中心に振り返る。
【メジャー自己最速の101.7マイルが出た理由】
MLBの常識を変える存在――大谷翔平。果たして二刀流で、チームを世界一に導けるのか。その重く、遠い目標に向け、大谷は今、一段ずつ確実に階段を登っている。
現地時間6月28日、敵地で行なわれたカンザスシティ・ロイヤルズ戦に、今季3度目となる「1番・投手兼DH」で先発出場した。試合開始5分前までブルペンで23球の投球練習を行ない、その様子をひと目見ようとブルペン付近のスタンドには人だかりができた。スタジアム内でスタメン発表があると、大歓声が沸き起こった。アメリカ中西部、ミズーリ州のファンも、歴史的瞬間の証人となったことに興奮していた。
なお、試合で投げる前に打席に立つのは、今回が3試合目にして初めてのこと。ブルペンから急いでベンチに戻り、打撃用の防具を装着して打席に向かった。相手はメジャー通算61勝を挙げている好投手セス・ルーゴ。ファウルと空振りで追い込まれた後、最後は外角から入ってくるカットボールに手が出ず、見逃し三振に倒れた。試合後、「二刀流のルーティンに慣れるには時間がかかりそうか」と問われた大谷は、「今日はノーヒットでしたけど、バッティングとピッチングは基本的には分けて考えています。ピッチングがよくて、バッティングはあまりよくなかった1日だったかなと思います」と淡々と語った。
「よかった」と語った投球内容だったが、立ち上がりは決してスムーズではなかった。1死から、ロイヤルズの看板選手ボビー・ウィットJr.にライナー性のシングルヒットを許し、続くマイケル・ガルシアには四球。1死一、二塁のピンチを迎えた。しかし、そこからギアが入った。4番ヴィニー・パスクアンティノに対しては、1球目に内角低めギリギリへ99.2マイル(約159.6キロ)の直球を決めてストライク。2球目も内角に100.2マイル(約161.3キロ)の直球で2ストライク、そして3球目にはメジャー自己最速となる101.7マイル(約163.6キロ)のストレートで二塁ゴロの併殺打に仕留め、ピンチを切り抜けた。
大谷もドジャースも、再び肘を痛めることを最も警戒している。そのため、全力で投げるというより、球速を97マイル(155.2キロ)前後に抑えるようにしていた。にもかかわらず自己最速。再発の恐怖はないのかと問われると、大谷はこう答えた。
「思いきり投げようとは思っていなかったんですけど、ランナーが二塁に行ったりとか、ランナーがたまると、やっぱり打たれたくないという気持ちが先に出てきて(球速が)上がってしまう。自然と上がってしまった感じです」
そして肯定的に、「ライブBP(実戦形式の打撃練習)を続けていたら、こういう球速では投げられなかったと思う。そういう意味では、短いイニングでしたけど、実戦の中で早い段階からこの球速帯に慣れていくのはいいこと。今日のなかでよかった点の一つだと思います」と振り返る。
また、2度目の手術からの復帰で、球速が戻るかどうか不安はなかったのかとの問いには、「1回目の時よりも術後の感覚はすごくよかったです。術式も多少違いますし、ドクターとの話のなかで、球速が戻る確率は高いということだったので、自信はありました。球速帯だけでなく、投げ方も含めて、まだまだ改善の余地はあると思っています。これからですね」と答えた。
これまでの大谷の最速は、公式戦では2022年9月10日のヒューストン・アストロズ戦でカイル・タッカーに投じた101.4マイル(約163.2キロ)。渡米後の最速は、2021年3月21日のサンディエゴ・パドレスとのオープン戦でフェルナンド・タティスJr.に投げた101.9マイル(約164キロ)だった。7月5日に31歳の誕生日を迎えるが、その年齢でMLBでの記録を更新した。
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著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
大谷翔平 (おおたに・しょうへい)
1994年7月5日生まれ。岩手県水沢市(現・奥州市)出身。2012年に"二刀流"選手として話題を集め、北海道日本ハムからドラフト1位指名を受けて入団。2年目の14年にNPB史上初の2桁勝利&2桁本塁打を達成。翌年には最多勝利、最優秀防御率、最高勝率の投手三冠を獲得。