「10.19決戦」第2戦、時間切れで消えた優勝 梨田昌孝は現役最後の守備には「正直、つきたくなかった」 (3ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo
  • photo by Kyodo News

【時間切れの10回裏は「正直、守りたくなかった」】

――8回裏に高沢さんのホームランで4-4と追いつかれた後、9回の攻防は両チームとも無得点。9回裏には有藤監督の9分間にわたる抗議があり、抗議が終わった時点で試合時間は3時間40分ほど経っていました(規定の4時間まで残り約20分)。

梨田 そうでしたね。結局10回表も近鉄は点を取れませんでしたし、10回裏のロッテの攻撃が始まる時点で、試合時間は残り3分しかありませんでした。

――梨田さんは10回裏にマスクを被りましたが、どんな心境でしたか? 現役最後の守備でもあったわけですが。

梨田 勝つ道がなくなって優勝もなくなり、間もなく時間切れになる状況でしたから、もう守らなくていいんじゃないかと思っていました。正直、守りたくなかったですよ。試合を成立させるだけの守りでしたから。「これが俺の最後の現役の守備か」とも思いましたね。

――現役最後にマスクを被るのがこのシチュエーションのキャッチャーは、梨田さん以外にいませんよね。

梨田 おそらくいないでしょうね。今振り返ってみれば、すごく思い出が詰まった試合とも言えるのですが、当時は虚しさと寂しさと情けなさを感じて、なんとも言えない気持ちでしたね。

――試合後、オーナーも出席する形で「残念会」が催されたとのことですが、どんな様子でしたか?

梨田 わんわん泣いている選手もいました。僕はその試合で引退だったこともあって、「あぁ終わった」という気持ちで割とサラッとしていた。あまり感情を表に出すほうではないですし、心の中で野球に対して感謝したり、「これから先も野球に携わる仕事をしていければ」といったことをずっと考えていました。チームメイトたちには「来年また頑張れよ」と声をかけましたね。

 あと、残念会が終わってから、巨人の中畑清と長電話したのは覚えています。彼とは同学年ということもあって気兼ねなく話せるのですが、「本当にやめるのか?」と聞かれたので、「もう体がガタガタやからやめるわ」と言ったり。彼は「決意が固いならしょうがないな、ご苦労さん」と労ってくれました。

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