「10.19決戦」第2戦、時間切れで消えた優勝 梨田昌孝は現役最後の守備には「正直、つきたくなかった」 (2ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo
  • photo by Kyodo News

【阿波野の痛恨の一球に思うこと】

――この試合は納得のいかない判定が多かったですか?

梨田 僕はスタメンではなかったので、ピッチャーの球を全部受けたわけじゃないですが、ベンチから見ていて「惜しい球はストライクをとってほしいな」という思いでした。横から見ているのでコースはわからないのですが、高さはわかるので。他の選手たちも同じ思いだったでしょうし、選手たちが露骨に口に出していたこともあったと思います。

――第1試合に続き、第2試合も接戦になりました。8回表にラルフ・ブライアントがソロ本塁打を放って近鉄は4-3とリードを奪いましたが、8回裏から登板した阿波野秀幸さんが高沢秀昭さんにソロ本塁打を打たれて同点に追いつかれました。

 この時、キャッチャーの山下和彦さんは真っ直ぐのサインを出し、阿波野さんが首を振ってスクリューボールを投げたと聞きます。梨田さんはこの場面をベンチからどう見ていましたか?

梨田 あの時は追い込んでからスリーボール・ツーストライクまでいきました。高沢には盗塁があったので、フォアボールを出したくないという意識もあったはず。阿波野は「スクリューボールを低いところに投げておけば」という自信があったんでしょうけど、裏を返せば自分の真っ直ぐの球威が落ちていることを自覚していたんじゃないかと思うんです。連投は連投でも、"当日の連投"でしたから仕方ないんですけどね。

 結局、阿波野は腕がしっかり振れず、ストライクからボールになる手前で叩かれたというか、うまく拾われてしまいました。川崎球場はフェンスが高いので、打たれた瞬間、僕らはベンチで「フェンスに当たれ!」と叫んでいました。ボールはわずか数十センチ上を通過した気がするんですが、ホームランになってしまいました。

――打たれた阿波野さんは、マウンドでうなだれていました。

梨田 僕らもあのホームランでガクンときましたね。「阿波野でやられたら仕方ない」というところはあったんで。

――高沢さんを迎えた場面、梨田さんが仮にマスクを被っていたとしたら、山下さん同様にストレートのサインを出していましたか?

梨田 あの時は、確かスリーボール・ツーストライクになる前に、ワンボール・ツーストライクと追い込んだカウントになったはず。山下に対しては、「もうちょっと早く、インコースに真っ直ぐをいってもいいな」と思っていました。スリーボール・ツーストライクになると、腕を振れなくなりますから。

 もう少し有利なカウント、例えば平行カウントぐらいで腕を振ったらスクリューボールで空振りを取れたかもしれない。逃げ道がなくなった状況からスクリューボールを投げたので、腕が思い切りよく振れずにボールがうまく落ちませんでしたね。

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