【MLB】大谷翔平を擁するドジャースは高年俸だから強いわけではない 倹約球団パイレーツの実況アナウンサーが語る球団格差の本質
変わらず好調な打撃を維持しながら二刀流復活を目指す大谷翔平 photo by Getty Images
前編:メジャーリーグ球団の実力格差の本質とは?
昨シーズンの王者ロサンゼルス・ドジャースはケガ人が続出するなかでも、4月終了時点で30球団中トップの成績を収めている。確かにドジャースは選手への投資を惜しみなく行ない、総年俸は高額だ。しかし、それが実力差の原因になっているのだろうか。
倹約球団ピッツバーグ・パイレーツの実況アナウンサーは、チームが成功を収めるために必要なことを現実的に指摘する。(文中は1ドル=150円換算)
【ドジャースと対照的な倹約球団パイレーツとマーリンズ】
ロサンゼルス・ドジャースがまた勝った。4月25日(日本時間26日)から5月1日(同2日)までホームで行なわれたピッツバーグ・パイレーツとマイアミ・マーリンズとの6連戦で5勝1敗。戦力の差は、スコア以上に明白だった。
ドジャースは、ぜいたく税(球団の年俸総額が規定額を超えた分に課される課徴金)を含めると今年のチームに4億7600万ドル(714億円)を投じている。一方、パイレーツとマーリンズは極端な倹約主義を貫く球団で、それぞれ9028万ドル(135億4200万円)と6900万ドル(103億5000万円)にとどまっている。
結果は予想どおりだった。ただ、問題はその「予想どおり」が試合そのものの面白さを奪っているということだ。6試合中2試合は接戦だったが、残る4試合は8対4、9対2、15対2、12対7と、大差がついた。野球がプロスポーツである以上、ファンが求めるのは一方的な試合展開ではなく、緊張感と高揚感に満ちた拮抗したゲームであるはずだ。
パイレーツの地元ファンは、ボブ・ナッティングオーナーに対し「チームを売れ」と迫っている。ナッティングがオーナーとなってからの19年間で、開幕時の年俸総額が30球団中26位以下だった年は実に17回に上る。とくに今年は、ポール・スキーンズら若く優れた投手が台頭しており、打線を強化すれば勝つチャンスは広がるはずだった。まさに「勝ちにいくべきタイミング」だったが、球団が契約を結んだのは峠を越えたベテラン野手との1年契約のみ。そんな姿勢に、ファンの不満は敵意へと変わりつつある。
マーリンズも深刻だ。MLBには収益分配制度があり、スモールマーケットの球団はビッグマーケットの球団が稼いだ収益を分配してもらえる。ただし労使協定(CBA)では、球団が受け取った収益分配金をチームのフィールド上のパフォーマンス向上に使用することが義務づけられている。また球団のぜいたく税換算の年俸総額(通常の年俸総額とは計算方法が異なる)は、収益分配金の1.5倍以上でなければならない。
しかしマーリンズはその協定を無視しようとしている。同球団は7000万ドル(105億円)以上の収益分配金を受け取ると見られており、それであれば年俸総額は1億500万ドル(157億5000万円)以上でなければならないはずだが、現時点では8546万ドル(128億1900万円)と2000万ドル以上も下回っている。
さらにチームは、シーズン中に必要な補強を行なうどころか、エースのサンディ・アルカンタラを他球団にトレードし、若手有望株と交換すると予想されている。彼の年俸1730万ドル(25億9500万円)はチーム内で群を抜いて高額で、ほかの選手は全員500万ドル(7億5000万円)以下。ロースター40人のうち、メジャーリーグ経験が3年以上ある選手は、わずか4人しかいないのが現状だ。
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著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。