【MLB】大谷翔平を擁するドジャースは高年俸だから強いわけではない 倹約球団パイレーツの実況アナウンサーが語る球団格差の本質 (3ページ目)
【成績の差は年俸の多少が原因ではない】
それにしても、と思う。ドジャースはオーナーの強力なバックアップのもと、補強に惜しみなく資金を投じ、ケガ人が相次ぐなかでも5月1日(日本時間2日)終了時点で21勝10敗(勝率.677)とナ・リーグ西地区首位、全30球団でもトップに立っている。一方で、パイレーツ(12勝20敗/ナ・リーグ中地区5位)やマーリンズ(12勝18敗/同東地区5位)のように財布のひもが固く、限られた戦力で戦わざるを得ない球団は、常に下位に沈んでいる。現行のMLBにはサラリーキャップ制度が存在せず、球団間の戦力格差は年々広がる一方だ。
そうしたなか、いまや名門ニューヨーク・ヤンキースのオーナーでさえ、サラリーキャップの導入を求めるようになっている。
ただし、すべてを資金力の問題として片付けてしまうのは短絡的だ。パイレーツの実況アナウンサーとして31年目を迎えたベテラン、グレッグ・ブラウンは筆者にこう語った。
「競争の公平性を保つためにサラリーキャップが必要だという考え方は理解できます。ただ、実際に導入されるかといえば、今のところは無理でしょう。選手組合のトニー・クラーク専務理事が、"論外"と明言していますから。
とはいえ、サラリーキャップがあれば成功が保証されるわけでもありません。たとえばNFL(プロフットボールリーグ)のクリーブランド・ブラウンズは、長年サラリーキャップの下でプレーしていますが、それが役に立っているとは言えません。シカゴ・ベアーズも同様に苦戦しています。結局は、球団の組織運営がしっかりしているかどうかです。トップからボトムまで、優れた組織運営が必要なのです。
サラリーキャップがあれば助けにはなるでしょうが、それがすべてではありません」
ピッツバーグではファンが「チームを売れ」と怒っているそうですね、と尋ねると、ブラウンはこう答えた。
「面白いことに、最近パイレーツがアナハイムで(ロサンゼルス・)エンゼルスと試合をしたとき、エンゼルスファンも『オーナーはチームを売れ』と合唱していました。オークランド・アスレチックスのファンも、数年前から同じことを叫び続けています。昨オフには、カブスのファンも『オーナーはもっと金を使え』と怒っていましたし、ヤンキースファンもフアン・ソトと再契約できなかったことに不満を露わにしていました。
要するに、どの都市でも、勝てなければ『金を使え』『チームを売れ』と批判される。勝てば文句は出ない。それが現実だと思いますよ」
結局のところ、必要なのは"お金"だけではなく、"組織力"なのだ。
つづく
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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