中日の元エース今中慎二「カッとなることがなくなった」 巨人との「10.8決戦」の敗戦から得たもの (2ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo
  • photo by Sankei Visual

【10.8決戦は「集中しすぎた」】

――個人タイトルにこだわりがない一方、「10.8決戦」は是が非でも勝ちたかった?

今中 勝ちたかったですね。勝っていたらどうなっていたんだろう、という想像もします。その後の野球人生も変わっているかもしれないですし、あの年の日本シリーズに出ていたとしたら、相手は黄金時代の西武ですしね。

 ただ、僕らは負けてしまったこともあって、日本シリーズは1試合も見なかったです。気晴らしでゴルフをして、野球のことを忘れてオフを過ごしていましたね。ぼ~っとしていた時間が、いつものシーズンより長かったような気がします。

――この試合に出場した中日や巨人の選手たちと、この試合について語る機会もあったと思いますが、印象的な話はありましたか?

今中 巨人の村田真一さんや槙原寛己さん、桑田真澄さんとか、一緒に取材を受けてこの試合を振り返ったことは何度かあります。試合前のミーティングで、巨人の長嶋茂雄監督が「勝つ!勝つ!勝つ!」と連呼していた話を聞いた時は、長嶋監督はそういう思いで試合に臨んでいたんだと、覚悟を感じましたね。ただ、普段の生活の中で、この試合のことを誰かと話すことは一切ありません。

――ちなみに、今中さんの野球人生の中で、一番印象的な試合はこの試合ですか?

今中 インパクトの大きさでいえばこの試合ですが、やっぱり初登板と初めて開幕投手を務めた試合が印象に残っていますね。この2試合だけはめちゃめちゃ緊張しました。1年目の5月に初登板した時は緊張しまくっていましたし、初めて「怖いな」と思ってちびりました(笑)。緊張で腕が振れなくなって、「腕が振れねぇ」と思いましたし、あまりの打球の速さにびびっちゃって。

 開幕戦(1993年、対阪神)を初めて任された時は、それほど緊張はしていなかったんです。でも、いざ試合前のブルペンに行った時、キャッチャーからの返球をノータッチでスルーしてしまいました。捕ったつもりがボールを後逸してしまっていて、「俺、緊張してんじゃねぇの、これ」って。それと、疲労感は強烈でした。5回ぐらいでへばっているのが自分でもわかりましたよ。

――10.8決戦の時はそういう疲労感ではなかった?

今中 そうですね。あの試合に限っては疲れるとかではなく、試合に"集中しすぎた"のかもしれません。冷静にいられたのでまわりがけっこう見えていたでしょうし。ただ、落合さんに詰まった当たりでのタイムリーを打たれてから、一瞬でカッとなってしまって、そこからは「もうどうでもいいや」じゃないですけど、周りが見えなくなっていたんです。

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