由規が語る、最初で最後となった台湾の一軍マウンドとこれから「野球を辞める理由がないんです。まだうまくなっていますから」 (5ページ目)

  • 阿佐智●文・写真 text & photo by Asa Satoshi

 その声は、途中出場の厳宏鈞(イェン・ホンジュン)がライトオーバーのツーベースを放ち、2人のランナーをホームに迎え入れた時に最高潮に達した。それを見ながら由規は、ブルペン捕手を座らせた。つづくバッターが倒れ、3アウトになった時、由規は10球目を投げ終えていた。

「感無量でしたね。バッターの人は知らなかったでしょうけど、ブルペン陣はみんな8点目が入ると僕の出番だとわかっていましたから。なんかイーグルスの時を思い出しました。あの時も育成で入って、途中から支配下登録されて、一軍登板は1試合だけでまったく同じシチュエーションでした。チームがポストシーズンを決めた後の次の試合に出場登録されて、投げる確約なんかもなくて、点差開いたらいくよって。みんながつないでくれたチャンスなんだってかみしめながらマウンドに向かいました」

 自分の顔と名前をデカデカと映し出す大型ビジョン、沸き立つ歓声、名物のチアガール。もう何年も見ることのなかった「一軍」の風景が、そこにはあった。

 往時のスピードはなくなったものの、キレのいい球で由規はたった2球で先頭打者を追い込んだ。しかし、まだ勝負をあきらめていないガーディアンズの4番・范國宸はここから6球粘ったあと、痛烈なファーストゴロを放つ。誰もが1アウトと思ったが、これをファーストの朱育賢(ジュウ・ユィシェン)がはじいてしまう。

 結果的にはこれが運の尽きだった。試合後、ヘッドコーチの古久保健二も投手コーチの川岸強も「あれで1アウトだったら結果はまったく違っていた」と口を揃えた。

 結局、打者5人に対して1失策、3安打で2失点。奪ったアウトは三振の1つだけだった。

 1アウト満塁の場面で追い込んでからの4球目を8番バッターにセンター前にはじき返されたのを見ると、監督の曾豪駒はボールを手にマウンドに向かった。マウンドの由規からは白い歯がこぼれていた。

 まだ5点差、あとアウト2つ。まだ投げさせてもいいのではないかと思ったが、テストはここで終了した。

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