内海哲也「選手に『ああしろ』『こうしろ』と言う必要はない」 コーチになって心がけているのは「とにかく見ろ」 (2ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

【名白楽・小谷正勝の教え】

「去年まで現役としてみんなと一緒にやっているので"コーチと選手"という関係になりきらず、もっと近い存在でありたいなと。『自分はコーチ』と線引きすると、選手はとっつきにくいと思うので。たわいもない話から野球の話まで、悩んでいるときにパッと声をかけてあげられるように心がけています」

 いわゆるメンターの役割だ。"上司と部下"というより、先輩として後輩をサポートしていく。

 内海は巨人時代の選手会長を務めた頃にチーム内の派閥をなくすなど、選手たちがコミュニケーションを図りやすい環境整備に努めた。球界でよく知られる"気配りの人"だけに、リーダーシップの考え方にも独特なものがある。

 そんな彼だからこそ、聞いてみたいことがあった。選手が成長するために、コーチはどれくらい寄与できるものだろうか。

「大して多くないと思います」

 内海は即答した。

「個々の選手がやることですし、僕も現役の頃にはそう思っていました。特に今は情報量が多いので、選手それぞれが『自分はこれ』と決めたトレーニングをやっている。だからこそ、コーチが『ああしろ』『こうしろ』と言う必要はないと思っています」

 上位下達は今の時代に相応しくない。だからこそ、コーチになったばかりの内海は選手たちと絶妙な距離を保とうとしている。

「ずっと見ているなかで気になったことに対し、『俺ならこうするかな』とワンポイントでボソッと言ったことが、その選手に当てはまるケースはゼロではないと思います。そういう可能性のために毎日、まずは選手を観測することを心がけています」

 内海には指導者として大切にしている言葉がある。プロとしてやっていく自信がまるでなかった若手時代、二軍投手コーチとして大きなきっかけをくれた小谷正勝(78歳)の教えだ。

「初めは見るだけにしろ。何も言うな。とにかく見ろ」

 現役最後の2022年、西武でコーチ兼任となることが決まり、指導の極意を聞きにいった際に教えられた。佐々木主浩、斎藤隆(ともに元横浜/現DeNA)、川崎憲次郎(元ヤクルト)など数々の投手に大きな影響を与えた名白楽は、決して押しつけるタイプではなかった。

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