横浜F・マリノスの「その場しのぎ」は続く 残留は「偶然性にかける」しかないのか
6月21日、横浜。J1リーグ、横浜F・マリノスはファジアーノ岡山を迎え、0-1で敗れた。前半戦を折り返して以降も、最下位を抜け出せていない。Jリーグ発足時からの10クラブ「オリジナル10」で、降格がないのは彼らと鹿島アントラーズだけだが、残留へ差し迫った状況だ。
この数週間だけで、いくつも異変が起こっていた。
19年間、横浜FMのGKコーチとして不動だった松永成立が退団。小さくない衝撃的だった。2022年の優勝メンバーだった永戸勝也はヴィッセル神戸へ移籍。皮肉にも、左サイドバックの定位置を確保して活躍を見せている。さらにパトリック・キスノーボ監督の解任が伝えられ、川井健太監督の就任を伝える報道があったが、結局は「大島秀夫ヘッドコーチの繰り上げ」(暫定監督)という"その場しのぎ"だった。
「選手はプレーの姿勢を見せ、"目指す方向性は間違っていない"と体現してくれました。次につながる戦いだった」
岡山に敗れた試合後、今シーズン3人目となる大島監督は言った。本当に、その戦いが次につながるのか? すでにアラームは鳴り響いていた―――。
ファジアーノ岡山戦後、客席むかって頭を下げる横浜F・マリノスの選手たちphoto by Hiroki Watanabe/Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る 筆者は図らずも、今シーズン3勝しかしていない横浜FMが勝利を飾った試合現場に2度いた。選手、スタッフもファン・サポーターも、地元メディアも勝利を喜んでいた。勝ち点は貴重だ。
しかし、"勝っただけ"だった。
どうやって守り、攻めるか。いるべき場所やプレーのジャッジは行き当たりばったりで、まともにボールをつなげない。守備の連係も乏しく、空回りしていた。
勝利は悪い部分を覆い隠すが、消えるわけではない。勝つことで変わっていく、というのは都合のよい幻想である。勝った時こそ、自分たちを見つめ直し、変わる機会だ。
岡山戦は横浜FMが負ける姿を見た初めてのことだったが、勝った試合と内容は変わっていない。ほとんどサッカーになっていなかった。
サッカーとは何か?
それは集団性である。11人がそれぞれどこにいて、いつ走り出し、止まり、どうボールを止め、蹴るか。攻守のつながりは社会性であり、距離感やタイミングに変換され、具体的には「セカンドボールを拾える」「チャレンジ&カバーができる」などという補完関係となる。関係性があるからこそ、信じて走り出し、パスを入れ、勝負も挑める。集団性は「仕組み」にも言い換えられるが、それを土台にしてオートマチックに動くことができるし、そのうえで適応や応用が生まれるのだ。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。