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大島康徳の飾らない素顔。「運命の糸に逆らわずに乗っかった」高校生は偉大で気さくな野球人となった (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Snakei Visual

 初めて大島さんと面と向かったのは、日本ハムの監督を退任して解説者になっていた時だった。野球雑誌のウェブ版でコラムの連載をお願いすることになり、筆者が構成担当になった(携帯版『野球小僧』/白夜書房/2012年6月まで配信)。指定された取材場所が新宿の高層ホテルだったから、さすが大御所......と思っていた。しかし、ラウンジに現れた大島さんは気さくで表情も穏やかで、「どうも」と言われた途端に緊張が解けた。

 長身でスマート、若々しい服装にも高級感がある。テレビで見てきたあの大島さんだ......と色めくようなオーラもある。だが、こちらが威圧されるものではなく、初めて言葉を交わしたにもかかわらず、自然な雑談から始まってすんなり本題に入ることができた。毎回の雑談中、「ところで、今日は?」と大島さんが発するひと言が取材の始まりの合図になった。

 コラムの一貫したテーマはバッティング。きっと熱く激しく語ってもらえるだろうと想像し、タイトルを<大島康徳の打激論>とした。活躍して注目のバッター、不調のバッター、各チームの打線などについて詳しく解説してもらった。しかも、何を話題にしても必ず笑いどころがある。ゆえに対話自体が愉しく、そのような雰囲気になる野球人は大島さんだけだった。

"愉しい"といえば、言葉と表現の面白さもそう。今でも忘れられないのが「邪魔なボール」という表現だ。右バッターの大島さんにとっては、自分の体のほうに曲がってくるシュートが邪魔で「このボールさえなければ外の甘い球を打てたのに」と思っていたとのこと。当然、それでも打とうと努力した話になるのだが、結局、邪魔は邪魔のままだったという。

 そのように、現役時代に打てなくて苦労した話をはじめ、オフの過ごし方で失敗した話など、自身にとってマイナスの内容も正直に洗いざらい話してくれた。ときに恥ずかしそうに打ち明けることもあったが、何より感じたのは潔さ。公開できない裏話などはまず語られることなく、毎回、大島さんの直言をすべて生かさせてもらった。

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