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門田博光は野茂英雄打倒に5カ月を費やした。「それがプロの世界なんや」 (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

「開幕前の1カ月ほど練習らしい練習ができなかったのは事実。それで広瀬さんとヘッドの横溝(桂)さんから『スタメンから外す』と言われたんやけど、ちょっと待ってくださいとなってな。それで『開幕の1試合だけは何があってもスタメンでお願いします。何番でもいいので出してください』って、オレも引かなかったんや」

 首脳陣からは「練習も満足にできてないんやから無理するな。今回だけは我慢せえ」と説得されたが、門田にはひとつの確信があった。

「開幕戦だけは練習をやっているとか、やっていないとか、調子がいいとか、悪いとか、そんなこととは関係ないものがある。やったことのある者にしかわからん特別な感覚がある試合、それが開幕戦なんや」

 鬼気迫る主砲の直訴に最後は広瀬が折れ、「6番・指名打者」での出場となった。当然、首脳陣に直訴したからには、相応の結果を出さなければならない。そんなプレッシャーのなか、門田はこれ以上ない結果を出した。

「イニングは覚えてないけど、ノーアウト一塁、カウント3-0からの1球を仕留めたんや。相手は鈴木啓示や。あの時のオレは練習もできてなかったし、あの試合の、あの打席の、あの1球しかスタンドへ持っていける球はなかった。ど真ん中の真っすぐや」


 相手は近鉄(現・オリックス)のエースで、走者一塁でカウントは3-0。普段の門田ならあり得ないことだが、あの打席ならベンチから「待て」のサインが出ても不思議ではなかったと振り返る。ただ、サインが出たとしても、好球が来れば打ちにいくつもりだったと門田は言う。

「若い時から散々19番(野村克也)に怒られて慣れとったからな。怒鳴られようが、次の試合から外されようが、そこはお構いなしやった」

 結果、「待て」のサインは出なかった。門田が続ける。

「それまで3番、4番を打っていた門田があったから、ベンチも『待て』は出さんかったんやろう。逆に鈴木啓示にしたら、6番を打っとるオレはそれまでの門田とは違うという感覚があったはずや。そこにギャップが生まれて、鈴木啓示が一番自信を持っとるストレートで、しかも真ん中近辺にストライクを取りにくると。狙いが定まったところで、1試合に1球あるかないかの球がきたんや」

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