門田博光は野茂英雄打倒に5カ月を費やした。「それがプロの世界なんや」 (4ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

「まだ一軍の試合で投げてない選手のために、なんでプロの世界で散々戦ってきた40歳のオッサンがここまで苦しまなあかんのか......そんな問答から始まるんや。でもな、いくらそれまで修羅場を潜り抜けてきたからといって、古狸の経験だけで本物はやっつけられない。もう一度、新鮮な思考力からつくり上げていかなかったら、こっちがやられてしまう。それが、オレらが戦ってきたプロの世界なんや」

 そしてこう続けた。

「神仏を味方につけようと思ったら、そこまでやらんとあかんのよ。勝負の世界は、自分に運気をつけるための行動力というのが絶対に必要で、ちょっとほかより変わった練習をしているから勝つんであって、並の練習をやっているヤツに神仏は味方してくれない。最後はそこなんですよ」

 オフの時点で門田が野茂に関して得ていた情報は、ストレートが飛び抜けて速いということと、フォークが村田兆治レベルであるということの2つだけ。

 やがてシーズンに向けて各球団が動き出すなか、野茂の投球映像を初めて見た時に門田は唖然となった。そこで初めて、野茂の投球フォームが"トルネード"だと知ったからだ。この投手からどうすればホームランを打てるか。門田の思いは日に日に増していった。

「神仏に対しても、徐々に理論が変わっていったんや。ただ願うだけやなしに、『オレは1カ月半、真っ暗のなか、雨が降っても、雪が降っても走ってきたんや。これでオレが第1号じゃなかったら、たとえ神仏であっても許しませんで』と。オープン戦はいい。でも、公式戦の野茂からの第1号はオレや。オレが打たなあかんのやと、空に向かってよう言うとったわ」

 いざペナントレースが始まり、野茂のプロ初登板は4月10日の西武戦だった。秋山幸二、清原和博、デストラーデがクリーンアップに並ぶ強力打線との対戦に、門田は「誰もホームランを打つなよ」と念じ続けた。

 その思いが通じたのか、野茂は1本もホームランを許すことなく、4月18日のオリックス戦を迎えた。門田が4番に座るオリックス打線は、1番・松永浩美、2番・福良淳一、3番・ブーマーと強力だった。そこでも門田は「ホームラン打つなよ......」と念じ続けた。

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