八重樫幸雄に巨人レギュラーの可能性
「トレードの話があったみたい」

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

――当時の巨人は、八重樫さんより5歳年上で、V9時代の二番手捕手だった吉田孝司さんがレギュラー捕手でしたよね。後のレギュラー捕手・山倉和博さんの入団前だったし、巨人に移籍すればレギュラーだったかもしれないですね。事前に知っていれば、「巨人入り」を望みましたか?

八重樫 事前に知っていても、「巨人に行って野球をやりたい」とは思わなかったと思うよ。広岡さんが断ったのは「大矢の後は八重樫だ」という思いがあったんだろうし、広岡さんが監督だった時にコーチになった森(昌彦/現・祇晶)さんは、僕に期待してくれていることは感じていたから。それに、僕らはヤクルトの一期生みたいなものでしょ?

――ヤクルトが球団経営にかかわるようになったのが1969年。その年のドラフト1位が八重樫さんでしたからね。

八重樫 そうそう。だから「他球団に行きたい」とは全然思わなかったし、途中から入るのってイヤだからね(笑)。

【一瞬で溶けてなくなった白い歯】

――広岡さんといえば、「管理野球」。とくに玄米中心の「食事制限」が有名ですよね。食事に関しては、相当厳しかったんですか?

八重樫 どうだったかなぁ? みんなにそれを聞かれるんだけど、一度も「玄米」なんて聞いた覚えがないんだよなぁ......。僕がよく覚えているのは「コーラを飲むな」っていうこと。ある時のミーティングで、広岡さんがどこからか抜けた歯を持ってきて、それをコーラに入れたらあっという間に溶けてなくなったんだよね。

――確かに、「コーラを飲むと骨が溶ける」とは、昔、噂でよく聞きましたけど、さすがに「あっという間に歯が溶ける」なんてあるわけないじゃないですか(笑)。仮にあったとしても、明らかに何か細工しているに決まっているじゃないですか!

八重樫 確かに。「本当に本物の歯なのかな?」とは思ったけど、歯が溶けた瞬間は、意外とみんなで「オーッ」って歓声が上がったよね(笑)。半分疑いつつ、少し笑いながらだったと思いますけどね。

当時を振り返る八重樫氏 photo by Hasegawa Shoichi当時を振り返る八重樫氏 photo by Hasegawa Shoichi――実際に広岡さんが監督になってチームが強くなっていく感覚はあったんですか?

八重樫 ありましたよ。それまでは淡々と負けていたのに、少しずつ「山あり、谷あり」という野球に変わっていきましたからね。凡打なんだけど、きちんと捉えた打球が相手のファインプレーに阻まれたり、ちゃんとランナーを進める進塁打になったり、きちんと内容のあるものに変わっていったのは広岡さんが監督になってからのことだったな。

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