【高校野球】神奈川屈指の進学校、川和の左腕エース・濱岡蒼太はなぜ「高卒→プロ」にこだわるのか?
想像していたイメージとは違うな......。
4月12日、春季神奈川大会3回戦・川和対藤沢翔陵戦。藤沢八部球場のマウンドに上がった川和の先発左腕・濱岡蒼太を見て、そんな感想を抱いた。
川和のエース・濱岡蒼太 photo by Kikuchi Takahiroこの記事に関連する写真を見る
【球速よりも大切なもの】
濱岡は群雄割拠の神奈川で脚光を浴びる左投手だ。2回戦の日大藤沢戦では自己最速タイの144キロを計測し、延長11回タイブレークの末に4対3と勝利している。昨秋は甲子園メンバーが多数残る東海大相模に2対3で敗れたものの、7回まで1失点。川和は文武両道の県立高ながら、今やすっかり強豪からマークされる存在になっている。
濱岡は身長177センチ、体重87キロのたくましい肉体で、とくに腰回りの筋肉の充実ぶりは目を見張る。てっきり東松快征(享栄→オリックス)のような剛球左腕を思い浮かべていたのだが、試合前のキャッチボールの段階で違和感を覚えた。
数十メートル離れた地点から投げる濱岡のボールが、パートナーの手前で落ちてくる。いわゆる「垂れるボール」だった。濱岡自身も納得がいかないのか、傍らで見守る平野太一監督と話し込む光景も見られた。
試合が始まっても、印象は変わらなかった。
あくまでも目測ながら、球速は130キロ台前半程度。美しいスピンがかかっているわけでもなく、捕手の手前で失速するボールも目立った。つまり「キレがいい」と評されるタイプの投手ではなさそうだった。
立ち上がりには2四死球を許し、二死一、二塁のピンチを背負っている。濱岡が本調子ではないのは明らかだった。
だが、不思議なことに、濱岡は一向に打ち込まれる気配がなかった。スイスイとアウトカウントを重ね、9回を投げ抜いてしまう。被安打3、奪三振9、与四死球4、失点0。チームは2対0で勝利し、4回戦進出を決めている。
試合後、濱岡に自身の投球について聞くと、こんな答えが返ってきた。
「理想どおりのピッチングではなく、苦しい展開だったんですけど、粘ってゼロで切り抜けられたのは成長だったと感じます」
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著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。