ルーキー近本光司が阪神を変えた。武器は優れた野球脳と溢れる好奇心

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 5月30日に甲子園球場で行なわれた阪神と巨人の伝統の一戦。いきなり見せてくれたのが、阪神のルーキー・近本光司だった。

 1回裏、1番・近本が放った打球は大きくバウンドし、ショートへの内野安打となった。左打者お得意の"当て逃げ"ではなく、渾身のフルスイングだからこそ生まれた一打だった。

阪神のリードオフマンとしてチームを牽引するルーキーの近本光司阪神のリードオフマンとしてチームを牽引するルーキーの近本光司 そして塁に出ればいとも簡単に盗塁を決め、あっという間にチャンスを広げて見せた。まさに電光石火。

「トライすることが大事だと思うんですよ。アウト、セーフより、自分のイメージしている走りができればOKって考えています。アウト、セーフで盗塁を考えると、スタートをためらうようになり、トライするのが怖くなる。相手には、クイックのうまいピッチャーもいれば、強肩のキャッチャーもいる。盗塁はいつも成功するとは限らない......そう考えています」

 昨年の秋、まだ大阪ガスに所属していた近本に話を聞いたのだが、その時、こう語っていたのを思い出した。たしかドラフト直前で、本人もなにかと心揺れる時期だったはずだ。

「結婚もしましたし、現実問題としてプロを目指すようになって、この1年で劇的に状況が変わりました。プロは夢ですが、入ったとしても活躍しないと意味がない。都市対抗では橋戸賞という名誉をいただきましたが、僕にとっては、今の自分の実力、手応えはまだ6合目......いや、5合目っていうところなんです」

 大阪ガス野球部のある首脳陣が、こんなことを言っていた。

「野球部としても近本を失うのは大きいですけど、会社の方はもっと大きな損失なんじゃないですかね......」

 どこの企業、どんな業界にいても、近本は将来を嘱望される人材になったはずだ。近本と話をしてまず感じたことは、彼ならどこの会社の面接を受けても、おそらく"内定"をもらえるだろうということだ。こちらの目をほどよい強さで見返しながら、耳に心地いい音量の声が入ってくる。なにより話がわかりやすい。

 聡明さと朗らかさと、そして意志の強さ。野球選手としてだけでなく、パーソナリティーとしての抜群のバランス感覚を持った"逸材"だと思ったものだ。

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