2014.10.27

驚きと喜び。突然、日本シリーズが甲子園にやって来た

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Nikkan sports

 阪神電車沿線に暮らす人たちに、タイガースについて訪ね歩いたことがあった。もう8年も前のことで、姫島駅そばの立ち飲み屋で聞いた小宮路さんという男性は昼からお酒に酔ってはいたが、それは素晴らしい演説なのだった。

「オレは立ち飲みが好きやからいろんな店に行くけど、タイガースのこと聞けば話にパッと入っていけますやん。そこから、しょうもない鉄工所だけど、そこでの苦しい話もするねん。この辺に住む人間はタイガースと関わって当たり前やろ」

シーズン2位ながらCSで巨人を下し、9年ぶりに日本シリーズ出場を果たした阪神

 その言葉に、阪神沿線に暮らす人にとってタイガースは"日常"なのだと感じた。

 月日は流れ、2014年10月25日、日本シリーズが甲子園球場で開幕した。9年ぶりにシリーズ進出を果たしたタイガースの相手はソフトバンク。阪神沿線に暮らす人たちは、どんな気持ちでこの日を迎えているのか。あらためて阪神沿線を歩いてみたのだった。

 尼崎中央3丁目商店街は阪神尼崎駅前にあり、タイガースの優勝マジックを日本一早く出すことで有名な商店街だ。歩き始めたのは午前9時過ぎ。朝のタイムセールスでにぎわっている店もあれば、開店準備に追われている店、まだシャッターの閉まっている店もある。

「今日はタイガースのアレで朝からバタバタしてますんで、あとから来てくれませんか」

 柴田食料品店の寺井利一さんは言った。店内の棚には食料品や雑貨と一緒にタイガースの商品が並び、壁にはタイガースのポスターが貼られている。熱心なタイガースファンで、8年前に話を聞いた方だった。

 とりあえず店を出ると、商店街の有線からは"日常"としての『六甲おろし』が流れている。ひとりの女性は、『六甲おろし』にあわせたリズムを軽くとりながら衣料品店へ入っていく。商店街を歩いていると、ありとあらゆる店がタイガースセールをやっている。

 と、その時、1台の自転車が私を追い越していくのだが、去り行くうしろ姿を見て「あっ」と思った。全身タイガース姿なのだった。しかしここは甲子園球場ではなく、街中である。背中には"KANEMOTO 6"とあった。そのあとを追いかけると、自転車に乗った男性は駅前で一般的服装の女性と合流。並んで歩き出すと「今日はスタンリッジやから」と、男性の話す声が聞こえてきた。そして駐輪場に自転車を預け終わると、声をかけた。その男性は橋元さん(33歳)といった。

―― これから甲子園ですか。

「試合は6時15分からなんで、まずは商店街のどっかで飲んで、それから行きます」

―― 今から飲むんですか(笑)。まだ11時前でお昼の時間にも早いです。

「アマ(尼崎)ではフツーのことですよ。それに、正直、今回は棚からボタモチですからね。まず、CS(クライマックス・シリーズ)のファーストステージで広島に勝てると思ってなかったし。そりゃお酒も飲みますよ。理想はリーグ優勝しての日本シリーズでしたけど、CSファイナルで巨人に4連勝しての進出ですからね。実はそれでけっこう満足しています(笑)。いつもなら『勝て!』という気持ちでいますけど、今日は負けてもしょうがないという感じですね」