驚きと喜び。突然、日本シリーズが甲子園にやって来た (2ページ目)
橋元さんと路上で立ち話をしていると、作業着姿の男性がこっちへ向かってきた。
「兄チャン、甲子園行くんか。ええなあ。オレは(チケットの)抽選に当たらんかった。今日の試合は(日本シリーズの)一発目で大事やから、しっかり応援頼むな」
やっぱり、橋元さんの姿はイヤでも人目を引くのだった。
「確かにここにくるまでに、今みたいにいろんな人に声をかけられましたよ(笑)。でも、アマではこれもフツーのことなんです。これからもっと沸いてきますよ」
谷好隆さん(80歳)は千船駅前で、たばこ店と立ち飲み店を営んでいる。シーズン席を内外野で4席、何十年も保有し続けている。ご夫妻で旅行をする際には、オーダーメイドの、ひと目でタイガースとわかる虎の刺繍の入った背広やネクタイを着用する。店先に座る谷さんの手元には九州のガイドブックが置かれている。
「九州の試合も3つとも取れた。娘が電話でうまく取ってくれた。これで1週間は仕事にならんね(笑)」
甲子園の4試合分も、シーズン席保有者の優先権で確保。最大で7試合を見ることができる。話をしていて思ったことは、あと数時間後に日本シリーズが始まるというのに、実に落ち着き払っていることだった。
「私も歳なんやろか。そりゃ力は入ってるけど、ソワソワせえへんようになったなぁ。この前の日本シリーズ(2005年)は心ウキウキやったけど。あの時は勝ちたいなという思いでいたらボロ負けしたけどな(ロッテに0勝4敗)」
―― 今年、リーグ優勝してないという引け目がどこかに?
「あるんやろうか......。でも、リーグ優勝して日本シリーズで負けたら残念やしな。2位なら負けても万々歳や。勝って儲けもんなんやから。今の気持ちとしては、負けるにしても、ええ試合して2つでも勝てればそれでええな。そりゃ4勝3敗が理想的だけど、正直、実力はソフトバンクが上でしょう。とにかく今年はタナボタやからね。CSもまず広島が勝つやろう思うてたし、巨人には2つ勝てばええなぁくらいでしたから」
話しを聞いていた谷夫人は「でも生きているうちに、また日本シリーズが見ることできてよかったですよね」といたずらっぽく笑った。
「これであと10年はまずないですからな」(谷さん)
「お父さんも10年後は90(歳)やもんね」(夫人)
「生きててもボケとるな。きっと野球もわからへんようになっとる(笑)」(谷さん)
―― 来年、優勝する可能性もありますよ。戦力も補強するでしょうし。
そう言うと、ふたりは「さー」と口を揃えた。この"あうんの呼吸"はさすが名夫婦と、うらやましく思うのだった。
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