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【MLB】大谷翔平が追求する科学とデータに基づくアプローチ メジャーでの成功を誓うアジア系野手のモデルケースに

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

「ドライブライン」でのトレーニングを経てMVP選手に成長を遂げた大谷 photo by Kyodo News「ドライブライン」でのトレーニングを経てMVP選手に成長を遂げた大谷 photo by Kyodo News

後編:大谷翔平だけじゃない! MLBアジア系野手台頭の時代

大谷翔平のドジャースで、韓国出身の金慧成(キム・ヘソン、26歳)がデビューを飾ったが、シカゴ・カブスで打撃好調の鈴木誠也をはじめ、日本・韓国でのプレーを経てMLBで活躍する野手も増えつつある。この傾向は続いていくのか? 大谷がMLBのトッププレーヤーに上りつめた過程にもあったように、それは野球の現場において、パフォーマンスが科学とデータに基づく高い技術を生み出していることとも無縁ではない。

前編〉〉〉「大谷翔平に続き、アジア系野手台頭の時代は来るのか?」

【大谷の成功の礎となった「ドライブライン」】

 筆者がアジア系の野手にチャンスが広がっていると考える理由は、打撃技術の習得がこれまでのようにコーチや本人の経験則に頼るのではなく、より科学的なアプローチへと変化してきている点にある。

 長らく打撃は、いわば「職人芸」として、経験と感覚に頼る側面が強かった。しかし近年では、トレーニング施設「ドライブライン」(所在地はワシントン州シアトル)などの登場により、科学とデータに基づく再現性の高い技術へと変化してきた。

 大谷も、その科学的トレーニングによって劇的な進化を遂げた選手のひとりだ。もともと人並外れた才能を持っていたのは確かだが、綿密な分析と科学に基づくトレーニングによって、さらに著しく成長した。日本時代の大谷は、スイングスピードこそNPBでもトップクラスで、打球の飛距離も規格外だったが、コンタクトにはムラがあり、三振率もやや高めだった。そのため、MLBのスカウトたちの多くは、打者としてよりも投手として成功するだろうと見ていた。

 それでも2018年、MLBのルーキーイヤーにOPS.925を記録。速球への反応のよさとバレル率(*)際立ったが、インコースの速球や高めのゾーンには弱さがあり、コンタクト率やゾーン外スイング率はリーグ平均を下回っていた。今のようなMVP級の打者ではなかった。

長打が出やすいとされる打球の速度と角度の高さに入る打球の、全打球に占める割合。

 転機となったのは、2020年オフ。ドライブラインに本格的に通い、打撃面で劇的な進化を遂げる。ハイスピードカメラ、モーションキャプチャー、フォースプレートなどの最新機器を駆使し、動作解析による「見える化」を徹底。スイング中のバット軌道や、下半身→体幹→上半身といった身体の連動を数値化することで、無駄な動きや改善点が明確になった。従来のような感覚頼みではなく、「物理」と「生体力学」に基づく修正が可能となった。

 さらに、体格・可動域・反応速度などの測定結果から、その選手にとって最適なスイングを設計。ヒットトラックスなどのテクノロジーを用い、打球角度、打球速度、打球方向などを即座に表示することで、「理想的な打球」を生むスイングの再現性を高めていった。こうした数値によるフィードバックが、スイング修正の精度とスピードを飛躍的に向上させた。

 その成果が実を結び、2021年、23年に投打二刀流でMVPを獲得。2024年には、打者のみでMVPに輝いた。大谷の成長過程は、これからMLBを目指す日本や韓国の若手打者たちにとって、理想的なモデルケースとなっている。

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著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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