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シスラーからイチローへ、84年の時を経て継承されたバッティングの真髄 2004年に起きた奇跡 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 スタンスを狭めて、なおかつ背筋を伸ばすと、バットは自然と寝る。そうすると身体とバットが頭で描いた線に正確に入る──これはイチロー独特の感覚だ。その動きに伴ってバットのヘッドがさらに遅れて出てくるようになり、ボールをギリギリまで見ることからミスが減り、ヒットにできる球は劇的に増えた。

 不思議だったのは、バットを寝かせたイチローのバッティングフォームがシスラーにそっくりだったことだ。身体のサイズもほぼ一緒、三拍子揃ったプレースタイルも似通っている。84年の時を越えて、イチローが蘇らせたシスラーの記録。野球がパワーに引きずられそうな21世紀初頭にこの記録が蘇ったのは、偶然ではなかったのかもしれない。

【ヒットを打つことは簡単ではない】

 記録達成の際、シスラーの家族はイチローに一通の手紙を託している。シスラーが息子のために書き残したバッティングの極意。そこにはこんな一文が認められていた。

"the fundamentals to good hitting are timing, balance and a controlled? bat."(バッティングの本質は、タイミング、バランス、そしてバットコントロールです)

 イチローは、「タイミング、バランス、バットコントロールの3つが揃って初めてパワーが生まれると、シスラーはそう言いたかったはずですよ」と話していた。

 ところがスポーツ科学の発達は、この3つのうちの何かが欠けた時、それを補うためにはウエイトトレーニングや薬物による筋肉が効果的だという誤解を選手たちに植えつけてしまった。

 この3つを揃える野球の鍛錬を怠り、安易な近道としてウェイトトレーニングに必死になり、なかには禁断の果実に手を出す疑惑まみれの選手たちが現れてしまったというわけだ。そのせいで野球界は退化したとイチローは嘆いていた。

 イチローがヒット1本を打つために、どれほどの努力を積み重ねているのかを知る人は多くない。彼の努力をひと言で言い表すとしたら、「ルーティンの徹底」ということに尽きる。

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